テクノロジーよ、止まれ!

1960年代に子供たちの間で流行した「時間よ止まれ!」という言葉があった。 手塚治虫原作のNHKドラマ『ふしぎな少年』で、主人公が時間を操る際に唱えたセリフがヒットしたものだ。   小学生だった私は、近所の子どもたちと一 … 続きを読む

創作は、焦らずに発酵を待つ

小説家が原稿を「少し書いては破り捨て、また書く」をくり返し、「私の才能は、もう枯れてしまったのだろうか」と苦悩する姿は、昔から映画やドラマでよく見てきた光景だ。   おそらく、小説に限らず、音楽や絵画など、いわゆる「芸術 … 続きを読む

夜明け前の推敲 ―― 終わりのない文章との闘い

小学生の頃、母から「慌てないでいいから、ゆっくり確かめなさい」と何度も言われた。 宿題やテストの結果を見て諭されたときの言葉だが、その声は今でも耳に「タコ」ができたまま残っている。   当時の私は、「できた!」と思うと、 … 続きを読む

私が青年に託したもの

私がかつてタイムラプス撮影の個人事業を行っていたとき、「長期タイムラプス遠隔撮影システム」を開発した。 その撮影装置と技術を引き継ぎたいと、はるばる遠方の地方都市から四十歳年下の青年が訪ねてきた。 彼は映像制作会社の社長 … 続きを読む

物欲が静かな願いに変わるとき

私はいつも、すぐれた機能を持った物や、新しく開発された物に心を奪われて生きてきた。 それは単なる飾りとしてではなく、夢を形にするための「道具・材料」として、常に私を魅了し、支配し続けてきた。   俗に言う「物欲」である。 … 続きを読む

書くことが心の一等席を並び替える

もう私の中では済んだことなのだが、かつて自分が感じていたことを、今朝のNHKの番組で医学的に肯定されたような気がした。 テーマは「嫌なことの忘れ方」。   その中で特に興味を惹かれたのは、ある脳神経外科医の話だった。   … 続きを読む

生きるための死生観

死生観という言葉自体に暗さを感じ、死生観を考えるということに後ろ向きで、どこか悲観的な響きを覚えて避けてしまう人は多い。   実際、死生観をめぐる考え方をAIに入力しただけで、「あなたは 1人ではありません。あなたを気遣 … 続きを読む

異国を車で走破する

今では誰もが海外旅行を気軽に楽しめる時代になり、かつて主流だった「パック・ツアー」ではなく、個人で自由に旅する人も増えてきたように思う。   人生において「旅」ほど贅沢なものはない。 とりわけ青年期に経験する旅は、その後 … 続きを読む

元号が映し出す歴史の足跡 ―― 明治から令和へ

日本が誇る独自の制度に「元号」がある。 1968年、明治政府が「天皇一代につき元号は一つ」と定めて以来、天皇の代替わりごとに新しい元号が生まれ、時代の節目を刻んできた。   戦後、元号制度を定めていた旧皇室典範は廃止され … 続きを読む

何かが間違っている ―― 令和のDV・ハラスメント観

深刻な暴力や支配は、どの時代であっても許されない。   だからこそ、日常生活の中で起こり得るさまざまな衝突をどう捉えるかは、とても大切になる。   昭和生まれの私には、ここ二十年ほどで急速に厳しくなった「DV・ハラスメン … 続きを読む

心の中に絵を描くまなざしは、伝わっていた

子どもたちが立派に成長し、それぞれ家庭を持つようになった。 その日常をじじ・ばばの立場から眺めていると、「あっ」と思う瞬間がある。 血のつながりをふと感じるときである。   娘の、何事にも徹底して取り組む頑張り屋の性格は … 続きを読む

小さな背中に託すもの

いつの間にか、中国による台湾統一の可能性が現実味を帯びて語られるようになり、中国の海洋国家化を警戒して防衛戦略の再構築が迫られている ―― そんな見出しが新聞の一面を飾る日が続いている。 ついに政府内部でも、その日が来た … 続きを読む

もう送らないと決めたラブレター ―― 山田洋次監督へ

『男はつらいよ』の感想文の形となったエッセイを、私は印刷して山田洋次監督宛てにファンレターと共に送った。 どうしても私の感動を伝えたかったのだ。   深掘り『男はつらいよ』 ― 寅さん映画の神髄とは   しかし、投函した … 続きを読む

商店街を練り歩く昭和の音楽隊 ― ちんどん屋

テレビでサン・サーンスのクラリネット・ソナタが流れていた。 軽やかに転がり出るような音色を聴いているうちに、七十年近く前の記憶がふっと浮かんだ。 子どもの頃、街角でよく見かけた「ちんどん屋」の華やかな姿である。   ちん … 続きを読む

自己陶酔という肯定

「惚れた他人」は自分に憧れの姿を見せてくれるが、「惚れた自分」は自分を未来へと導いてくれる。 私がここで言う「自分に惚れる」とは、自己像に溺れるナルシズムではない。 むしろ、自分の人生をそっと肯定する確かなまなざしのこと … 続きを読む

分断する世界と暴走する技術

  人類は常に変革の中を生きてきた。   しかし、昭和の価値観で育った私には、目の前を通り過ぎている変化を、穏やかな気持ちで見届けるのは難しくなっている。 技術と社会の進歩が、かつてなかった規模と速度で私たちを吞み込んで … 続きを読む

誰にも語らない「誇り」の強さ

人生で、自分が何を誇りに思うかなどどうでもよく、楽しく生きられればそれでいい、と考える人もいるだろう。 しかし、誇りとは、自分の人生を肯定するための大切な支えではないだろうか。 誇りとは何か   人には人の数だけ生き方が … 続きを読む

言葉が世界を変えるとき

外国語とは、忘れたと思っていた記憶を一瞬で蘇らせる、不思議な鍵のようなものだ。 その鍵が開くのは、かつて自分が夢中で生きていた時間であり、そこで出会った人々の声であり、あの頃の自分自身である。   外国語を学ぶ事の素晴ら … 続きを読む

酒が語る未知との出会い

私は若い頃から酒に強かった。どれだけ飲んでも翌朝にはケロリとしている体質で、二日酔いの記憶がほとんどない。 そのおかげで、酒という酒をためらいなく試してきた。 銘柄や種類にこだわる「酒通」ではないが、人生のあらゆる場面で … 続きを読む

憧れは歳をとらない

地元の友人たちと毎日のようにLINEでやり取りしている。 いい歳をした年寄り同士が、テレビに登場する女子アナやテレビ体操のお姉さんを巡って、まるで少年のように夢を語り合っているのだ。   「この娘は私のイチ推しです!」 … 続きを読む

四十年越しの友情

もう数年前の話になるが、突然、マルシアルという、四十年前にスペインの大学の学生寮で生活を共にした友人からメールが飛び込んできた。   そのメールは、私に一肌脱いでもらえないかという依頼だった。 四十年ぶりだというのに何事 … 続きを読む

長いものに巻かれないというアイデンティティ

道ですれ違った若い男性を見て、私は思わずはっとした。   懐かしいベレー帽をかぶっていたからである。 ベレー帽は昭和時代に強い存在感を示したファッションで、手塚治虫や富士子不二雄といった漫画家の象徴的なアイテムでもあった … 続きを読む

七千円の貸しと泡の謎

週に一回、妻と大型スーパーへ食料品の買い物に行く。 支払いは現金のみの店だ。 私の楽しみである晩酌の酒代とつまみ代は、家計費からではなく、私の小遣いから払うことにしている。   昔と違って、趣味に浴びるほど金をつぎ込むこ … 続きを読む

最期のかたちを探して

人は誰しも最期を迎える。   だが、その話は必ずしも暗いものではない。 どれほど元気であっても、やがて訪れるその時を、私は静かに見つめている。   私の父は大動脈瘤の手術を受けたが、施術に不手際があり、ICUで二カ月半を … 続きを読む

神は怒り、仏は静まる

日本では神社も寺も生活になじみが深い。 早朝の散歩コースは全部で八つ決めてあるが、どのコースを歩いてもどこかの神社か寺を通るように設定してある。 自分の気持ちとしては、それが神社であろうと、寺であろうとまったく差異はなく … 続きを読む

緑の大地と清流の地で

新緑が終わり、すべての生き物が夏へ向かって勢いを増す頃、野山は深みを増した緑に染まり、草木の香りが生暖かい風に乗って私を包む。 梅に始まった春の花の彩りは、いつの間にか幕を閉じ、気がつけば、家々の庭先では薔薇が誇らしげに … 続きを読む

日本が世界に誇る「道」の文化

最近、地元で開催された大相撲地方巡業を観に行く機会を得た。 相撲を観るのは初めてだったので、大いに楽しんできた。   目の前を横切る力士の肌があんなにすべすべして綺麗だとは思わなかったと感動したり、いつもテレビで見ている … 続きを読む

憎しみも、一期一会の一幕

憎しみは永遠に続くものなのだろうか。 人は必ず死を迎える。 それでもなお、憎しみだけは死を越えて残り続けるのだろうか。   どうしても相いれない相手がいたとして、いつも腹に据えかねていたとして、意見が合わないばかりか事あ … 続きを読む

ヒエラルキーの呪縛を超え、矜持を貫く

小説でも映画でもテレビのドキュメンタリー番組でも、描かれる「人生の優等生コース」は、一流企業に就職し、人より早く出世して、課長になり、部長になり、取締役になるというサクセス・ストーリーである。   出世の終着点は、常務、 … 続きを読む

忘却の相互扶助

昨日、昼食のテーブルに着きテレビを眺めていたとき、ふと面白い話題が浮かんだ。 「これはエッセイにしてみたら面白そうだね」と、妻に話すと、「そうね、それは面白そう」と言ってくれた。   夜になり、そのままになっていたアイデ … 続きを読む