神は怒り、仏は静まる

日本では神社も寺も生活になじみが深い。 早朝の散歩コースは全部で八つ決めてあるが、どのコースを歩いてもどこかの神社か寺を通るように設定してある。 自分の気持ちとしては、それが神社であろうと、寺であろうとまったく差異はなく … 続きを読む

緑の大地と清流の地で

新緑が終わり、すべての生き物が夏へ向かって勢いを増す頃、野山は深みを増した緑に染まり、草木の香りが生暖かい風に乗って私を包む。 梅に始まった春の花の彩りは、いつの間にか幕を閉じ、気がつけば、家々の庭先では薔薇が誇らしげに … 続きを読む

日本が世界に誇る「道」の文化

最近、地元で開催された大相撲地方巡業を観に行く機会を得た。 相撲を観るのは初めてだったので、大いに楽しんできた。   目の前を横切る力士の肌があんなにすべすべして綺麗だとは思わなかったと感動したり、いつもテレビで見ている … 続きを読む

ヒエラルキーの呪縛を超え、矜持を貫く

小説でも映画でもテレビのドキュメンタリー番組でも、描かれる「人生の優等生コース」は、一流企業に就職し、人より早く出世して、課長になり、部長になり、取締役になるというサクセス・ストーリーである。   出世の終着点は、常務、 … 続きを読む

忘却の相互扶助

昨日、昼食のテーブルに着きテレビを眺めていたとき、ふと面白い話題が浮かんだ。 「これはエッセイにしてみたら面白そうだね」と、妻に話すと、「そうね、それは面白そう」と言ってくれた。   夜になり、そのままになっていたアイデ … 続きを読む

「大将」の背中

「大将」と呼ばれる人がいる。 太っ腹で、優しくて、そのうえ矜持を貫いて生きている、格好いい男だ。   部長とか支店長とか専務とか社長とか、職業上の役職でふんぞり返っている人間とは違う。 まったく別の価値基準で人から尊敬さ … 続きを読む

ウクレレがそっとたたく、小さな未来の扉

ウクレレに触れるのは、おそらく六十年振りだ。 孫の男の子の誕生日プレゼントとして、密かに準備している。   通販で購入したウクレレは七千円ほど。 作った人に申し訳ないくらい安いが、おもちゃではなく、大人が普通に使える本物 … 続きを読む

三時に起きた、ひとときの恋人

誰にとっても孫ほど可愛い存在はないだろう。 男の子も女の子もそれぞれ違った特徴と「味わい」があり、甲乙つけがたい。   しかし、じ~じにとっては孫娘が特別の存在であることは、議論の余地がない。 まさに世界一の可愛い恋人な … 続きを読む

QRコードのアクエリアス

科学技術の最前線を走ってきたつもりが、気づけば世界は静かに先へ進んでいた。 孫娘のアクエリアス一つ買うのに、昭和の男はまたしても令和の仕組みに驚かされた。 語れば笑われるかもしれないが、これが正直なところである。 昨夜一 … 続きを読む

人生に描く、自分の美学

昔の映画を観ていると、懐かしい俳優のかつての姿を見ることができるが、次の瞬間、必ず頭をかすめるのが「この人まだ生きているのだろうか」という思いである。   映画『男はつらいよ』は、二十七年間、同じ俳優が同じ役を演じ続けた … 続きを読む

原子を並べて世界を創る時代

人類はこれまで、地球が偶然つくり出した物質に依存して文明を築いてきた。 木材、鉄鉱石、石油、レアメタル──いずれも自然が与えた一次産品であり、私たちはそれを加工して生活を成り立たせてきた。   しかし、それらは有限であり … 続きを読む

背中が物語る壮大な人生

昭和の美学は、いつも私を捉えて離さない。   語らない。 嘆かない。 叫ばない。 振り返らない。   それは強がりではなく、 生き抜いた者だけが持つ静かな矜持だ。   物語に、言葉はいらない。 物語に矜持を貫いた男は語ら … 続きを読む

坂道であることを受け入れる三十年

歳を取るにつれて身体は徐々に衰え、どこかに不具合が出てくる。 まわりを見ていると、還暦を過ぎたあたりからその傾向は一気に強まるようだ。   私の場合は、六十歳を過ぎた頃はまだ健康上の不都合も懸念もなかった。  現役そのも … 続きを読む

目を塞ぎ耳を覆いたくなるもの

テレビを見ていると、どうにもリモコンが手放させない。 頻繁にチャンネルを変えたくなるからだ。 変えた先から、またすぐ別のチャンネルに変えたくなることも多い。 放送局が悪いのではない。 放送内容を見聞きしたくない私の問題な … 続きを読む

創造という生き方

世の中は人の手で創られたもので満ちている。 それは草木のように自然に生えてきたものではなく、過去の人々が自分の感性と知恵を活かして創造したものだ。   それらを便利に使わせてもらい、楽しく遊ばせてもらう生き方はできる。  … 続きを読む

流転する規格と、遺物化される目の前の価値

先日、大手家電量販店の大型店舗を訪れた。 そこには高級オーディオの取扱コーナーがあり、立派な視聴室まで完備されていた。 私は若い頃オーディオに凝っていて、かなり散財したものだ。   少し覗いただけで違和感を覚えたのは、展 … 続きを読む

晩酌という儀式

晩酌は私にとって一日の終わりを静かに解き放つひとときだ。 どうやら私は、生活の中にある小さな儀式が好きらしい。 そう意識してきたわけではないが、ふり返って見ると、生活習慣を超えて行動の細部にまで自分なりの「こだわり」が染 … 続きを読む

通勤電車がつないだ、ふたつの世界のあいだで

先日、久しぶりに都心に出かけた。 池袋の東京芸術劇場で開催されるコンサートを聴きに行くためだ。 都心にはできれば行きたくないのだが、コンサートだけは仕方が無い。 私の住む埼玉県飯能市から池袋までは、かつて通勤で毎日乗って … 続きを読む

人は何に心を奪われるのか

芸術の世界にあるものは、観る者の嗜好によってその評価が大きく左右される。 そしてよく観察すると、そもそもその対象に対する「着目点」そのものが、人によってまったく異なっていることに気づく。   例えば映画であれば、 「登場 … 続きを読む

朝の祈りが連れて来た人

今朝のゴミ拾い散歩は、家から二キロほど離れた立派な神社と、その近くにある立派な寺を参拝しながら歩くコースだった。 予定通り歩き、あとに十五分も歩けば家に着くという地点まで来たときのことだった。   屈みながらトングで、数 … 続きを読む

哲学をするとき・懺悔をするとき

誰しも、未知の世界へ足を踏み入れたとき、どう振る舞えばよいのか分からず戸惑うものだ。 無我夢中で生きてきた過去から突き放され、心に空洞が生まれている自分に気づく。 小さくてもいいから生きがいや目標を見つけなくてはと思うが … 続きを読む

スマホだから、電子劇薬中毒

今日も静かな畑に囲まれた裏道を歩いていると、後ろから歌や話し声のようなものが聞こえてきた。 すっと追い越していったのは、背中にリュックサックを背負った男性が乗る自転車だった。 追い越されざまに後ろ姿の顔を見たが、首元まで … 続きを読む

生命のリレーのために、華やかに着飾るとき

春になるとそこら中に色とりどりの花が咲き乱れる。 梅やモクレンから春は始まり、家々の庭先にはスイセン、ヒヤシンス、フリージア、パンジーが姿を見せる。   春本番となると、桃や桜が咲き乱れる。 桜が散り、八重桜が重たげに花 … 続きを読む

声という生命の音 ― 人間の声はなぜ楽器を超えるのか

オペラ歌手の歌を聴くと、どうしてあのような素晴らしい声が出せるのだろうと、心から感心してしまう。 私はクラシック音楽のオーケストラを聴くとき、耳で聴くだけでなく、演奏者ひとりひとりの動きを食い入るように観察する。 楽器の … 続きを読む

焙煎という旅路 ― コーヒーと私の小さな工房から

朝の寝起きの一杯や、家でくつろいでいるときに飲む一杯のコーヒーは、体の隅々に血を巡らせてくれる。 本当に不思議な飲み物だ。 調べてみると、コーヒーの起源は年以上も昔、エチオピアで発見された赤い実の「覚醒作用」にあり、その … 続きを読む

春の朝、鳥たちの合唱に立ち止まる

朝早く、散歩にでかけようと家の前に立った。 まだ人々の一日の営みが始まる前の澄みきった静けさの中に、ひときわ明るく爽やかな鳥の声が響き渡っていた。 まるで人間がお喋りをしているかのように、絶え間なく華やかに啼き続ける鳥 … 続きを読む

哲学と仏道の静かな旅

映画や小説では、歳を重ねたり人生の大きな壁に直面した人が「仏門に入る」と語る場面をよく目にする。 世俗を離れ、仏の弟子として生きるという意味だが、必ずしも出家して僧侶になったり、寺で厳しい修業を積んだりすることだけを指す … 続きを読む

涎が垂れる昭和レトロ

『男はつらいよ』を観ていて、涎が垂れそうになる場面がふたつある。 ひとつは、タコ社長やおいちゃんが実にうまそうに吸うたばこだ。 私はもう何年も前に禁煙し、普段はそのことをすっかり忘れているのに、人が美味しそうに吸っている … 続きを読む

一枚を撮るということ

スマホが広まった今では、誰もが写真を簡単に撮影し、溢れるほどの数の写真をメモリーやネット空間に保存している。 もはや一度に全部を見ることなど到底できない。 撮る側は、枚数などまったく気にしない。 子どもにスマホを渡して、 … 続きを読む

昭和レトロが語るアナログの価値

何と言っても『男はつらいよ』に出てくるシーンは、すべて昭和レトロそのものだ。 あの映画をみて懐かしさを覚えるのは、昭和を生きてきた世代だろう。 しかし近年の昭和レトロ・ブームを眺めていると、その懐かしさが昭和を知らない世 … 続きを読む