科学技術の最前線を走ってきたつもりが、気づけば世界は静かに先へ進んでいた。
孫娘のアクエリアス一つ買うのに、昭和の男はまたしても令和の仕組みに驚かされた。
語れば笑われるかもしれないが、これが正直なところである。
昨夜一人でお泊りをした小三の孫娘を連れ、じじ・ばば三人で朝のゴミ拾い散歩にでかけた。
けやきの大木がある大きな神社まで二キロ少し。
孫娘は最初のうちは、まるで宝探しでもしているかのように前へ後ろへと走り回り、夢中でトングを動かしていた。
だが、子どもの集中力は長くは続かない。
参拝を終え、帰り道を歩き始めてしばらくすると、
「喉が渇いた~」
「ドラえもんのどこでもドアが欲しい~」
その声を聞いた瞬間、私は心の中で「来たな」と思った。
最初から、帰途の県道沿いの自販機で彼女の好きなアクエリアスを買ってあげるつもりだった。
ところが、である。
じじ・ばば二人とも、賽銭用の十円玉以外、財布を丸ごと忘れていたのだ。
「あっ!お金を忘れた!」
一瞬、三人とも固まった。
しかし、ポケットのスマホを思い出す。
「そうだ、クレジットカード払いがある。」
そう思って自販機を何台か確認したが、都心ではあるまいし、タッチ決済対応機は見当たらない。
孫娘はますます落ち込み、同じ言葉を繰り返す。
私はなんとかならないかと、何台目かの自販機を注意深く眺めていると、QRコードが目に入った。
その横には、キャッシュレス決済ができるようなことが書いてある。
他の自販機にも同じような表示はあったが、宣伝だと思い込み見向きもしなかったものだ。
「これが最後の救世主になるかもしれない」
祈るような気持ちでスマホでQRコードを読み込み、画面の指示に従って操作する。
すると、自販機の料金表示窓に数桁のコードが現れ、スマホの画面と一致しているのに気づいた。
どうやら通信しているらしい。
スマホ画面に並んだ商品の中からアクエリアス選び、支払を確定すると ――
ボトン。
自販機に指一本触れることなく、アクエリアスのボトルが落ちてきた。
孫娘は目を丸くし、じじとばばは声を上げた。
三人とも初めての体験だった。
帰宅後に調べてみると、この仕組みはもう五年前からあるらしい。
またしても、時代に置いていかれていたことを思い知らされた。
昨年末の忘年会で、QRコードに驚かされたばかりだとういうのに。
https://mafnet.jp/blog/archives/1150
昭和の時代から、科学技術には人並み以上に慣れ親しんできたつもりだった。
それでも、気がつけば世界は静かに先へ進んでいた。
「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」
そんな言葉がふと頭をよぎる。
また、やられた。
昭和の男のぼやきである。