流転する規格と、遺物化される目の前の価値

先日、大手家電量販店の大型店舗を訪れた。 そこには高級オーディオの取扱コーナーがあり、立派な視聴室まで完備されていた。 私は若い頃オーディオに凝っていて、かなり散財したものだ。

 

少し覗いただけで違和感を覚えたのは、展示されている数多くのスピーカーシステムだった。

どれも申し合わせたように、縦長の小さなスピーカーボックスに、同じサイズの小さなユニットが複数組み込まれている。

 

五十年前のオーディオ界では、スピーカーシステムと言えば、低音用の大口径ユニットを搭載し、ほかの音域用の口径の異なるユニットを組み合わせた、洗濯機や冷蔵庫並みの巨大な箱が高級機の象徴だった。

 

現代ではDSPというデジタル技術を駆使し、小型スピーカーでも低音を「偽装」して、大型スピーカーの重低音に近く聴こえる聴覚上の錯覚を起こさせている。 インテリア性や取り扱いの良さを優先し、多少の犠牲は割り切って作られ、現代の住宅事情にも合うとして受け入れられているようだった。

 

私の家にはJBL4344という、大型スピーカーシステムがリビングに鎮座している。 かつて後先を考えずに散財したものだ。 近年はほとんど鳴らすこともなくなったが、我が家の「家宝」として大切にしてきた。 気がつけば、いつの間にか時代の主流ではなくなっていた。


オーディオ装置の音源についてはさらに激しい変貌の歴史がある。

レコードがCDになり、オープンテープデッキがカセットテープデッキになった歴史はまだ理解できるとして、その後のデジタル技術の革新は凄まじかった。

 

その結果、私のオーディオラックにはMDデッキ、DATデッキ、LDプレイヤーなど、今ではまったく使われなくなった再生機器が並んでいる。 それぞれが、発売当時は高価な製品だった。


この四月から、FM放送をめぐって、私としてはなんともやるせない事態が起きた。

NHKのFM放送が、高音質とステレオ放送を売りにしてきたにもかかわらず、語学番組や高校講座などの教育番組を放送するよう大きく舵を切ったのである。

 

今から六十年前、FM放送は高音質のステレオ音楽ソースとして脚光を浴びていた。 私はオーディオシステムにつなぐため、KENWOOD製の高級FMチューナーを十六万円で購入した。 現在の物価水準に換算すれば七十万円ほどに相当する。 それだけの価値を持った音楽ソースだったのだ。

 

そのFMが教育番組用に使われるというNHKの方針に対しては、憤懣やるかたない思いと、時代の技術変化に対する愕然とした思いが入り混じった。


この冬、リビングで使っていたガス・ファンヒーターが寿命を迎え、廃棄することになった。

代わりの暖房器具を検討していて、驚くべき事実を知った。

 

私は、少なくとも二十年以上前から、「エアコンは電気代コストが高く暖房器具としては不向きだ」という認識を持っていた。 だから八年ほど前に買い替えた立派なエアコンも暖房には一切使わず、ガスファンヒーターを使ってきた。

 

ところが調べてみると、確かに昔のエアコンは効率が悪かったものの、最近のエアコンはR32という冷媒をヒートポンプで使用し、圧倒的に高効率で、全暖房器具の中で最安のコストを誇っていた。

 

さらに極め付けは、ガスファンヒーターは灯油ファンヒーターよりコストが高く、その中でも我が家のようにLPガスを使用したガスファンヒーターは最悪だったという事実だ。 エアコンと比較すると、なんと四倍近く高いコストを払っていたのである。

 

まったくもって頭がくらくらする話だった。


車の買い替えに際し、運転席まわりの内装設備を検討する事になった。

実は、私は車を買うとすぐに改造したくなるので、これまで常に中古車を選んできた。 直近の車は走行二十数万キロを超えていたため買い替えることにした。 さすがに今回は改造するつもりはないので、新古車レベルを狙いたいところだ。 そうなると内装なども十分に検討しなければならない。

 

しかし、私は最近の車の内装事情をよく知らなかった。 ナビ、カメラ、オーディオがすべて連携し、スマホを置くだけでBluetooth接続され音楽再生までできるという現代の常識を知らなかったのだ。 外付けのCDプレイヤーなどを必死に探していたが、娘の買った新車を見せて貰って愕然とした。 私が思い描いていた内装は、すでに前世紀の遺物だった。


私は技術者肌で、「アマチュア・エンジニア」として、趣味の域を超えた技術の世界で生きてきた。

しかし、すべての分野に精通していたわけではない。

その時々に自分が関心を寄せ、力を注いでいた分野では「玄人はだし」と言われることもあったが、それ以外の分野については驚くほど無頓着だった。

 

技術革新の嵐が吹き荒れるなか、の多くの「規格」の変化にはついていけなかった。

そして、この様子では、これからも変貌を続ける分野は増え、そのスピードはさらに加速していくに違いない。

人々は、ますます技術革新に翻弄されていくのだろう。

 

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