涎が垂れる昭和レトロ

『男はつらいよ』を観ていて、涎が垂れそうになる場面がふたつある。 ひとつは、タコ社長やおいちゃんが実にうまそうに吸うたばこだ。 私はもう何年も前に禁煙し、普段はそのことをすっかり忘れているのに、人が美味しそうに吸っているのを見ると、どうにも吸いたくなってしまう。

 

もうひとつは、寅さんが旅先の宿で徳利を何本もテーブルの上に並べ、ちびりちびりと飲むお酒である。 寅さんはたばこは吸わないが、お酒は大好きだ。 それも、ちびりと口に含んでは、「ちっ」と舌を鳴らし、唇を横に広げて歯の隙間から「し~っ」と息を吸い込んで舌の上にアルコールが沁みる感覚を楽しむ。 昭和レトロ感たっぷりの、薄い肉厚で、先が広がった盃で飲むあの姿は、観ているこちらまでたまらなくなる。

 

あの薄い肉厚で先が広がった盃だからこそ、酒を口に含んだとき、舌の上に広がったアルコールの旨さがふわりと立ち上がる。 すするのではなく、そっと舌に沁み込ませる飲み方だ。 最近の盃には、あの形状のものはほとんど見かけない。 ビールとは違い、アルコール度数の高い日本酒は、コップでがぶがぶ飲むより、舌で味わいながら飲むに限る。 寅さん映画を観ていると、どうしてもあの安物の昭和レトロ感あふれるお銚子と盃で晩酌をしたくなる。


AMAZONや楽天などのネットショップップを探してみても、そもそもあの形のものはほとんど売られていない。 たまに見つけても骨董品扱いで、目の玉が飛び出るような価格だったりする。 新品を探すのをあきらめた。 行きつくところはヤフオクである。 やはりあった。 先日、昭和レトロのお銚子と盃セットを落札した。 運よく、他に入札者がおらず、開始価格の350円で落札できた。 さすがに出品者に申し訳ない気がした。

 

 

このセットは三日前に届いたので、さっそく試してみた。 予想通りだった。 今まで飲んでいた安酒が「こんなにも旨かったのか」と驚いてしまった。 お酒は面白い物だ。 容器によって味わいがまったく変わってしまう。 昭和レトロは思い出の品であると同時に、思い出の味覚でもあったのだ。

 

寅さん映画に出てくるもうひとつのタイプの昭和の盃の出品も見つけた。 縦長の筒形のものだ。 これは舌の上でアルコールを広がり方が異なるのがその形状から見て取れる。 この形状なら、舌の上でのアルコールの広がり方が異なるのが見て取れる。 いっぺんに飲みたくても、この形ではちびりとすすってしか舌に載せられないだろう。 これは昨日届いたばかりなので、これから試すのが楽しみだ。

 

 

酒を飲まない方、あるいは飲んでも日本酒が好みでない方は、これを見てもなんとも思わないだろう。 たかがお酒のことで、何を感動しているのかと一笑に付されるに違いない。 だが、もし日本酒好きなら、思わず身を乗り出す話ではないだろうか。


このように、お金で簡単に手に入る昭和レトロには他にどんなものがあるだろうかと思いを馳せてみた。 もうやり方は学んだ。 ヤフオクに行けばいい。 「昭和レトロ」と入力して検索すると、その件数に驚いた。  優に二十万件を超えていたのだ。 興味深かったり懐かしかったりする物が次々に出てくるので、つい六千件ほど順番に覗いしまった。 さすがに二十万件すべてを見る気力はなかったが、十分に楽しめた。

 

だいたい次のようなどのようなものがあった。

扇風機、ラジカセ、オープン・テープレコーダー、ラジオ、テレビ、ミシン、カメラ、電話機、柱時計、置時計、筒形の石油ストーブなどの機械類から、調理器具各種、看板、雑誌、おもちゃまで多岐にわたる。 昭和の時代に少年・少女時代を過ごした人なら、間違いなく夢中になって見てしまうだろう。

 

六千件ほど覗いた中で、私が一番郷愁を覚えたのは、木製の氷式冷蔵庫だった。 これと同じものが、小学生時代の我が家にあった。 七十年近く前の製品だ。 まさかの発見であった。

 

 

当時は、氷屋さんが荷物用自転車の後ろの荷台に氷を載せて売り歩いていた。 大きな氷の塊を「一貫目」とか「半貫目」とかに大きなのこぎりで切って売ってくれた。 それをこの冷蔵庫の上の段に入れる。 庫内の温度がなんとなく下がる程度のものだった。 昭和三十年代に電気冷蔵庫が普及し始め、姿を消した。

 

この冷蔵庫が我が家に到着すると、母はさっそくアイスクリームを作ることにした。 材料を型に入れて庫内の下段にしまい、今か今かと固まるのを母と姉と三人で待った。 一時間置きにドキドキしながら扉を開けた。 もちろん、冷凍庫でもないのに固まるはずはなかった。 それでも、固まると信じて丸一日待ち続けたあの日のことは、懐かしい思い出として残っている。


昭和レトロを旅してみたい方がいたら、ヤフオクで「昭和レトロ」と検索してみることをお勧めしたい。 自分なりの懐かしい思い出に、心が当時にフラッシュバックする楽しい時間が過ごせるに違いない。

 

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