今朝のゴミ拾い散歩は、家から二キロほど離れた立派な神社と、その近くにある立派な寺を参拝しながら歩くコースだった。 予定通り歩き、あとに十五分も歩けば家に着くという地点まで来たときのことだった。
屈みながらトングで、数本まとまって捨てられていたタバコの吸い殻を拾っていると、正面から人が近づいてくる気配と「はぁはぁ」という荒い息づかいが聞こえてきた。 拾っている最中に人とすれ違うことはよくあるが、なんとなく恥ずかしいので、いつも下を向いて作業に集中する。
しかし今朝は、いつまで経ってもその人が通り過ぎない。 ふと顔を上げると、一人の老年男性が立ち止まっていた。 八十代ほどに見える。 片手には杖、もう片方の手には小さな車付きの旅行鞄。 その引手には、肩から外した大きな布製のショルダーバッグが掛けられている。 乱れた髪に髭だらけの顔をしたその男性は、下を向きながら苦しそうに息をしていた。 ニ、三歩進むのがやっとで、立ち止まっては何度も苦しそうに呼吸を繰り返している。 ひと目で、肺に障害があり、呼吸しても十分に酸素が取り込めない状態なのだと分かった。
驚いた私は手を止め、その男性をしばらく見守った。 私の横を通り過ぎ、ほんの少しずつ後ろ姿になっていくが、その様子は変わらない。 あんな状態で大丈夫なのだろうかと気になり、しばらく迷った次の瞬間、私は思わずその男性を追いかけていた。
「どうされました?大丈夫ですか?」と声をかけると「コ、コンビニにお金を下ろしに行かないと・・・」と絞り出すような声で答えた。 右手が掴んでいるスーツケースが「お荷物」なのか、それとも杖の代わりに身体を支えているのか判断がつかなかった。
試しに「持ちましょうか?」と声をかけ、右手の荷物に手を伸ばすと、男性はすっと手を離した。 「お荷物」だったのだと分かった。 息が苦しそうで、それ以上の会話は難しいようだった。 そこへ妻が追いつき、「コンビニなら、その先を右に曲がるとあるわよ」と言った。 そこで、とにかくその男性がコンビニまでたどり着けるように助けることにした。 あの苦しそうな姿を見て、私には他の選択肢はなかった。
二、三歩歩くたびに立ち止まり、苦しそうに息をする男性に「無理をしないでね。ゆっくりでいいから。」と声を掛けながら、「この人はどんな身の上なんだろう。お金をおろしたあとはどうするのだろう。家まで送り届けなくていいのだろうか。」と考え続けた。 スーツケースは驚くほど軽く、ほとんど空のようだった。 大きな黒いショルダーバッグの中にはタオルやティッシュのようなものが見えたが、大した荷物は入ってないようだった。
およそ十五分をかけて、百メートルほど先のローソンに到着した。 店内に入ると、幸いにも女性店員が四人ほどいて、商品を棚に並べていた。 私が大きな声で呼びかけると、一人がすぐに気づいて飛んできてくれた。 事情を簡単に説明すると、気持ち良く引き受けてくれた。 「ああ、よかった」と心からほっとした。 「おじさん、頑張ってね!」と声を掛けると、ATMの前でうなずいた男性の顔が、わずかに微笑んだように見えた。
その後、その男性がどうなったかはわからない。 「お金を下ろしてタクシーに乗り、病院か親族の家に向かうのであればいいのだけれど」と妻と話しながら、自宅へ向かった。
神様と仏様を参拝した清々しい朝に、こんな出逢いをさせてくれたのは、きっとどちらかが私を試したのか、あるいは功徳を積む機会をくれたのかもしれない ―― そんなことを考えているうちに、家に着いた。