何かが間違っている ―― 令和のDV・ハラスメント観

深刻な暴力や支配は、どの時代であっても許されない。

 

だからこそ、日常生活の中で起こり得るさまざまな衝突をどう捉えるかは、とても大切になる。

 

昭和生まれの私には、ここ二十年ほどで急速に厳しくなった「DV・ハラスメント」への世間の目に、どうしても違和感を覚えることがある。

 

人々は本当に「これは良くない」と心から思っているのか。

それとも、否定しないと批判されることを恐れて、そう振る舞っているだけなのか。

人の心の奥底は、よくわからない。

 

人と人の間に線を引けば引くほど、距離は遠くなる。

今の時代は、他人の温もりを感じることをどこかで拒み、「自分自身を守ること」を最優先にしている。

そうでなければ、この状況を受け入れるのは難しいのだろう。

 

そもそも人間関係とは、どこか「ぎごこちない」ものだ。

理想どおりにも、理屈どおりにもいかない。

料理だって、煮すぎたり焼き過ぎたり、あるいは半生だったりする。

けれども、そんな毎日を積み重ねながら、美味しい食卓を囲み続けている。

 

要は、どこまで「遊び」を許し、認めるかということだ。

極端な行動が糾弾され排除されるべきなのは、いつの時代も同じである。

しかし、このような行動に対する最近の世間のコンセンサスは、少し厳しい方向に偏りすぎているように思う。


報道の中には、「とんでもない。それは絶対に許せない。」という事例もあるが、すべてがそうではない。

 

世の中全体が、どこか過度に神経質になっているように感じてしまう。

 

周囲の人々が過敏に反応することで、それが連鎖反応を呼び、本来なら大事にするほどの話ではないのに、大きな社会的制裁へと発展してしまう事例もある。

 

DVについては、本当に右も左も何も分からない幼い子どもに、親の愛の手を上げることは許されないのであろうか。 実際問題、子どもたちに手を上げる親の話はあまり聞かなくなった。

 

ハラスメントは主に職場が舞台となるのであろうが、今では職場の長も直接職員に対して物を言うことが難しくなった。 職場の中に芳しくない動きがあっても、間に管理職を挟んで柔らかく探りを入れて、可能なら手を打つこともあるが、パワハラという言葉が頭をよぎり目をつむることが増えた。

 

令和の「DV・ハラスメント観」は「正しさ」より「リスク回避」で動いていないだろうか。

 

本当に悪質な暴力は、どの時代でも許されない。

しかし令和では、「悪質かどうか」よりも 「批判されないための行動」が優先されているように思えてならない。


心配していた懸念が、またひとつ現実となって表れた。

 

報道によれば、概略は次のとおりである。

 

・父親に初めて怒られて突き飛ばされた高校三年生の娘が、ショックのあまりChatGPTに相談した。

 

・ChatGPTは「匿名で相談に乗ってくれる」として児童相談所を紹介した。

 

・彼女は言われるままに児童相談所へ電話した。 そこで具体的な助けを求めたわけでもなく、意向も聞かれなかったが、児童相談所は警察に通報した。

 

・警察はすぐに娘の家に向かい、娘の意思や詳細を確認することもなく、父親を逮捕した。

 

・娘は泣き崩れ、父親は社会的地位を失った。

 

この一連の出来事は、現在の社会が抱える危うさを端的に示している。

ChatGPT、児童相談所、警察 ―― 関わったすべてが「AI的対応」をした結果である。

 

AIであるChatGPTは、もともと相談者の心情を正確にくみ取ることはできない。

そこには責めるべきものはないだろう。

 

児童相談所は、過去の悲惨な事例を知っているがゆえに、最悪の事態を想定し、自らの責任を問われることを避けるため、匿名であっても警察に通報した。

しかし、匿名相談を受ける機関として、娘の心情を丁寧に確認するとか、単なる情報のリレーではない「相談所」としての別の対応はできなかったのだろうか。

今後、匿名性が担保されないと知って相談を躊躇する「真に守るべき被害者」が増えるかもしれない。

 

警察もまた、法に厳格に従う立場であったとしても、娘宅で当事者の話を聞き、様子を確認するくらいはできたはずだ。

まるでAIロボットのように機械的に動くのではなく、別の対応が取れたのではないだろうか。

 

何よりも、注目すべきは、この事例に関わったすべての者 ―― 娘、ChatGPT、児童相談所、警察、父親 ―― その誰ひとりとして「幸せになった人」がいないということだ。

娘の家族、父を愛していた多くの人々も同じである。

 

誰ひとりいないのだ。

何のための騒ぎだったのか。


だからこそ、何かが間違っているのだ。

 

 

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