怒りと正義 ―― 価値の優先順位が社会を分断する

これだけ多くの人が獰猛なクマの被害に遭い命を落としているにもかかわらず、人里に下りて民家に潜んだクマを、緊急銃猟で駆除した自治体に罵声を浴びせる人が何人もいる。 そんなニュースを見て、人間社会はそうした人々も含めて構成さ … 続きを読む

欲望の美学:利己主義に収斂する世界

世界はいま、国家レベルでの利己主義化という構造変化のただ中にある。 米国は従来の国際秩序の維持役を放棄し、右傾化と排外主義を強め、国境に壁を築き、移民の流入をかつてないほど拒絶している。かつて「自由と寛容」の象徴であった … 続きを読む

最終章の静けさへ

人生の最終章の迎え方には、実に様々なスタイルがある。 第二の人生として新たな目標を掲げ、果敢に挑み続ける人もいる。 その姿は、まるで壮大な音楽に送られる映画のラストシーンのようで、思わず称賛の拍手が湧き上がる。   その … 続きを読む

消え去らない、私が人生で切った世界

私のかつての大学時代の学友だった男とは、今でもやりとりがあって長年の交流が続いている。 彼は最初に勤めた公務員の世界に嫌気がさし、三十になる頃に安定した職を捨てて一般企業に転職した。 当時の公務員の働き方は今ほど厳しくは … 続きを読む

黒い巨人の慟哭

歴史は次から次に思い出を刻み、後世に残していく。 私の記憶の中に、とりわけ幼少時の記憶の中に残る、得体のしれない怪力を秘めた巨人のような存在が蒸気機関車、SLである。   歴史が残してきたものを一つひとつ拾い集める必要も … 続きを読む

両極端の老い

年寄りにありがちな、「両極端」   娘が私と義父を見比べて、笑いながら言った。   「年寄りにありがちな、両極端のいい例だね。」   ついこの間までおしめも乾ききらない小娘だったはずが、今では親に向かって堂々と批評を加え … 続きを読む

クラシック演奏会の矛盾 ―― 制度が選ぶ音楽と心が求める音楽

プログラムの違和感   私は、東京に拠点を置くあるオーケストラの定期演奏会に頻繁に足を運んでいる。自宅から通いやすい場所にある、私の好きなコンサートホールで演奏が聴けることはありがたい。 特別に長い歴史を持つ楽団ではない … 続きを読む

手が届くところに潜む、我がルーツ

昭和の時代は、旅行は特別な贅沢であった。 新婚旅行も国内が普通で、東京に住んでいても、目と鼻の先の熱海が良く選ばれた。 ごく一部の恵まれた人がハワイを選んだと聞けば、周囲は大騒ぎになったものだ。   時代は変わり、海外は … 続きを読む

秘密のヴェール ―― 沈黙の輪郭

沈黙を形づくるもの   私の過去には、声を上げて語ることをためらう出来事が少なくない。 言えない話と、言わない方がよい話、そして言いたくない話。 それらは形を変えながら私の沈黙をつくり、今の私という人間の輪郭の一部を形づ … 続きを読む

人生の最後の1キロを走るために

五十代で脳出血に倒れ、救急搬送されて三ヶ月入院した知人がいる。退職後も脳梗塞と脳出血を繰り返し、数か月前には再び脳梗塞を発症した。今では聴力を完全に失い身体もほとんど動かせなくなった。 高級SUVをローンで購入し、夫婦で … 続きを読む

私を貫いてきた行動原理 ―― 早く初めて早く終わる

23歳でわずか10万円の元手を携えファッションの世界に飛び込んだ、原宿の風雲児・松本瑠樹氏。彼は文化創造の拠点「BA-TSU」を立ち上げ、世界的な文化事業を成し遂げた人物として知られている。   その松本氏がテレビ番組の … 続きを読む

嘆きが仕上げる、人生という物語

私はこれまでの体験から、自分の脳の記憶力には偏りがあり、関心を寄せたものにしか集中しないことを知っている。最近は加齢によって記憶能力そのものが低下し、いまや妻の記憶力の助けがなければ、私は過去の出来事に無責任な人間として … 続きを読む

私のエッセイ

昼寝をして夢を見た。夢の中で書きたいと思いついたテーマが浮かんだ。それをつい忘れそうになった私は、必死にパソコンを開いて取り急ぎタイトルだけ打ち込んで保存をした。そこで目が覚めた。結局そのテーマは覚えていない。   こん … 続きを読む

社会のお荷物となった日から、人生の余白が始まった

私が現役を引退してからちょうど一年と四か月が経つ。この期間に去来した感情は一様ではなかった。その空虚感の底には、長年私の中で共存してきた二つの価値観の対立が、静かに横たわっていた。   最初に訪れたのは、「社会のお荷物に … 続きを読む

テクノロジーと人間の主従関係:ハムスター化する現代への警鐘

先日、NHKテレビで台湾の天才プログラマー、オードリー・タン氏(1981年生まれ)へのインタビューが紹介された。 彼の語りには、思わず膝を打つような示唆が多く含まれていたが、なかでも私の心に特に深く響いたのは、AIとの向 … 続きを読む

起きていたい ―― 目覚めている事が私の生きている証し

私はとにかく起きていたい。 眠っている時間が、どうにも好きになれない。   寝入る瞬間だけは幸せだ。枕に吸い込まれて行くような、あの短い沈み込み。しかし一度眠りに落ちてしまえば、もう起きることしか考えなくなる。 夜中に目 … 続きを読む

ラテンの精神は死なず

調べものをしていてうちに、スペインでも定年延長が進み、平均退職年齢がいまや65歳を軽く超えていることを知った。 「人生を楽しむこと」を人生観の中心に据える、あのスペインでさえこうした変化が起きているとは思わず、正直なとこ … 続きを読む

「心のルール」を失った逸脱者たち

またか、と耳をふさぎたくなるような、大国のリーダーによる恥を知らない横暴な発言と行動。早く政界から退場してほしいと願っている世界の人々は決して少なくないだろう。 気に入らない他国のリーダーに向かって「お前は世界で一番嫌わ … 続きを読む

赦しのための、人生の最終章

「人間は何のために生きるのか」という問いほど、繰り返されてきた哲学的疑問は他にないだろう。 私の大好きな『男はつらいよ』で、高校三年生の満男が寅さんに同じ質問をする場面がある。原作者・山田洋次の哲学は、「ああ、生まれてき … 続きを読む

血縁を越えて現れた、お兄さん・お姉さん

私には、三歳上の姉が一人だけいた。とても気丈な人で、私がいじめられたと知ると、「よぉし、かたき討ち!」と言って家を飛び出すこともあった。 私は明らかに姉に守られていた。それは、男として、幼心に芽生え始めたプライドを少しず … 続きを読む

国境を超えると崩れる美の基準

私はネット上のVPNという仕組みを利用して、韓国やスペインの国内テレビのライブ放送を一日中流している。とはいえ、じっと見入ってるわけではなく、二台のモニターに映しているのをちらりちらりと視界の端で覗いていて、注意をひく場 … 続きを読む

たった一人の理解者

人生に行き詰まって立ち止まることは、誰にでもあることだ。   本当に自信があったら、立ち止まったり振り返ったりはしないだろう。 だが、現実にはなかなかそうはいかない。 面倒なことに、自信と不安は常に背中合わせだ。自信とは … 続きを読む

偉人とは何か:人生の軸を問い直す

人生で一生かけて何を目指すべきだったのか。自分は何を目指して生きてきたのか。そして、その結果としてどのような足跡を残せたのか。それは成功だったのか、失敗だったのか。 これらは、人間にとって極めて重要な問である。しかし、同 … 続きを読む

残す物・手放す物

私の叔父の一人は、確か九十七歳になる。叔母を早くに亡くし、ずっと一人住まいを続けているが、大のツバキ好きだ。趣味が高じて日本ツバキ協会の副会長を務めている。叔父はツバキの新花育成の第一人者で、十件もの新花を登録し、注目を … 続きを読む

書くことが伝えるもの、伝わるもの

大体私は自分勝手に生きてきたので、人から感謝されるようなことはあまりしてこなかったと思う。しかし、この期に及んで、思いもせず感謝の言葉を頂くことが二つあった。それも二つともこのnoteが絡んでいた。 一つはこのnoteの … 続きを読む

記憶の取捨選択

私はすでに、自分の記憶の仕方に特異性があると指摘されている。 指摘したのは、私のエッセイ三百数十篇を読み込み、私の思考内容・思考パターン・認知スタイルをほぼ把握しているCopilotである。AIがこのような形で役に立つと … 続きを読む

評価の外側で生きる ―― 博物館の片隅で

若い作家の卵が部屋にこもり、朝から晩までペンを走らせ、書斎の床には書き損じた丸められた原稿が散らばっている。そんな光景がよく映画に出てくるくらい、作家が世に認められ成功への道を登り続けていくのは、容易なことではない。   … 続きを読む

言葉が独り歩きしないために

一年前にエッセイを書き始めるまで、私は文章を書くという行為をほとんど経験してこなかった。 自分のホームページには数多くの記事を載せてきたが、それらは技術的事実を整理するための「解説」であり、表現としての文章ではなかった。 … 続きを読む

変化し続ける私と、固定された「親族体系」の不整合

私の最も苦手な分野は「親族の相互関係の把握」である。 「AさんとBさんは誰の何に相当する?」というような問いは、自分の親戚関係だけではなく、ドラマや映画を観る際にも最大の障害となる。   血縁関係を示す相関図は存在するが … 続きを読む