暮らし
「カメラマンの目」 ―― 光を切り取る感性
情感の世界はいつも私を捉えて離さない。 それは私が持って生まれた感性であり、写真や絵画など視覚に訴えるものは、その感性をもっとも強く刺激する存在だった。 若い頃、私にその感性の核心を教えてくれた出来事があった。 もう五十 … 続きを読む
ROMかRAMか ―― 記憶の設計思想
人間の記憶というものは、つくづく不可思議で、しかも容赦がない。 とりわけ夢の記憶の脆さは顕著だ。目覚めた直後には鮮明だった映像が、布団から足を下ろし、トイレへ向かう数歩のあいだに、砂が指の隙間からこぼれ落ちるように薄れて … 続きを読む
「若いときはいいの」 ―― 四十年越の赦し
「若いときはいいの。歳をとった今がこんなに幸せで本当に良かったわね。」 お隣の奥さんがそう言ったと妻から聞いた瞬間、私は四十年分の自分の歩みが、まるで一枚のフィルムのように巻き戻されていくのを感じた。 その言葉は、私 … 続きを読む
書くことが私を変えた一年間の軌跡
一年前の今日、私はペンを執った。生まれて初めてエッセイを書くことになった。毎日ひとつのテーマについて、自分の知力と感情を絞り出し、生きた言葉で文章を綴り切ることは、私にとって大きな挑戦だった。 私は長い間、自然科学の … 続きを読む
三つの出逢いが私を救った
人生には、仕事や生き方を決定づけるような「支えてくれる人」との出逢いがある。 私のタイムラプス撮影事業を成功へ導いたのは、まさに三つの出逢いだった。 第一の出逢い ― 韓国の友人キム・サングー 先日、Face … 続きを読む
老いの境界線を見つめる ―― 自覚できないその「始まり」
認知症状のある一人暮らしの高齢者を狙った詐欺犯罪が後を絶たない。自分の親や祖父母ほどの年齢の人々を騙し、金をむしり取ることに何のためらいも覚えない者たちは、もはや人間の屑と呼ぶほかない。そして被害者の立場に立てば、なぜあ … 続きを読む
真空管の灯りに宿る私の足跡
どうでも良い「独りよがり」と思われるかもしれないが、「自分にしか価値がない自分の足跡」がどれだけ自分の心を温かく照らしてくれるのか、あらためて知ることになった。 私のいくつかある趣味の中で一番熱中したものは「アマチュア無 … 続きを読む
宇宙探査の精神は、どこで途切れたのか
宇宙を舞台にしたプロジェクトは歴史とともに大きく変化を続けている。 「宇宙探査」という未知の世界への大きな夢で始まった取り組みは、いつの間にか「宇宙開発」と名を変えて、国家威信をかけた競争の舞台を作った。そして今は争奪戦 … 続きを読む
人生の挑戦と冒険に失敗はない
挑戦と冒険 ―― 目標に向かう者と、目標を探す者の物語 人生には、二つのまったく異なる旅がある。 ひとつは、すでに定められた目標へ向かって歩む「挑戦の旅」。 もうひとつは、目標そのものを探し求めて歩く「冒険の旅」。 … 続きを読む
AI時代の価値観と世代交代
私は、これから人間社会の価値観がかつてないほど大きく変容し、いずれ「自分はこの変化についていけなくなる」と感じる時が訪れると確信している。 その変化を推進する主役は、AIとともに育つこれからの世代の人々である。 私は … 続きを読む
「見上げてごらん、夜の星を」
私の人生には、星空に心を奪われた二つの時期がある。 一つは、未成熟ゆえの衝動に満ちた中学時代の三年間。 もう一つは、社会のただ中で全力投球していた四十代半ばから五十代半ばにかけての十年間である。 中学時代──世界が開き始 … 続きを読む
祖国を離れる理由・戻らない理由・こだわらない理由
人がどこに住むかという選択は、普遍的な感情ではなく、個人の経験と状況によって大きく揺れ動く。 祖国を選ばない人 ―― 魅力による移住 海外留学や旅行をきっかけに滞在先の文化に惹かれ、そのまま定住してしまう人は少なくな … 続きを読む
「自然の摂理」が危険なクマを可愛いと感じさせる意図
近年、クマが人間の生活圏へ侵入し、山中でも狂暴化して駆除の対象となる事例が増えている。 ビデオに記録された人を襲う姿や、箱罠にかかって逆上し牙を剝く様子は、見る者を戦慄させるに十分だ。 その凶暴な姿を目にするたび、私 … 続きを読む
物は陳腐化しても形は残る、心はいずれ記憶の主体を失う
オーディオの世界では、今や背の高いタワー型の箱に小さなスピーカーを複数個取り付けて、立派な重低音と拡がる音場空間を実現するシステムが主流だ。どこに行っても、かつて一世を風靡した巨大なフロアー型スピーカーにお目にかかる亊は … 続きを読む
感謝がひらく明日の一日
久しぶりにSNSでつながった学生時代の友人が、挨拶の冒頭でいきなり「両膝変形膝関節症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアと診断されています。」と病名を並べた。 五十年以上の空白を埋める最初の言葉がそれだったことに、彼の胸に積も … 続きを読む
神々しい先輩 ―― まなざしの継承
体育会系の世界には身を置いたことがない私は、社会人として第一歩を踏み出したとき、職場で出会った先輩達に礼を尽くすこともなく、まるで同輩に接するような態度で振る舞っていた。先輩諸氏から見れば、これほど可愛くなく、腹の立つ後 … 続きを読む
この時代に生まれたということ
歴史を遡っていくと、生きていた人たちが悲惨な目にあった時期はいくらでもあった。戦時中に青年期を迎え、徴兵されて無念にも散っていった話は枚挙にいとまがなく、封建時代には国民の大多数が理不尽な貧困生活を強いられたであろう。 … 続きを読む
「今日も生きて、物語を続けよう」というメッセージ
会社の同僚であろうと友人であろうと、人にはウマが合わない相手がいるものだ。ましてや何かで意見が衝突して嫌な思いをさせられた相手に対しては、嫌悪に近い感情を抱くこともある。「おだやかに、優しく、そして謙虚に」と自分言い聞か … 続きを読む
長期の権力集中が生む狂気
独裁と覇権を生むのは、イデオロギーを問わない。 この事実に、今や世界の多くの人々がうすうす気づき始めているのではないか。かつて「民主主義のリーダー」と呼ばれたアメリカが、今日では共産主義国家に匹敵するほどの権威主義的 … 続きを読む
国歌が生む一体感と、スポーツが守るべき尊厳
サッカー・ワールドカップ決勝戦のスタジアムにスペイン国歌が流れた瞬間、四十年前にあの国で暮らした日々の記憶が、鮮烈な色彩を取り戻して胸に押し寄せた。雄大で、共同体の魂を根底から震わせる国歌の旋律は、どの国のものであっても … 続きを読む
アマチュアの泥沼 ―― スペックへのこだわりの功罪
かつて私がタイムラプス・フォトグラファーとして仕事に没頭していた頃、撮影機材選びに迷いはほとんどなかった。 日本ではまだ黎明期の分野であり、手探りで機材を揃えるしかなかったが、選択の基準は常に一つだけだった。 目的を実現 … 続きを読む
書き続けた一年は裏切らない ―― AI先生と積む努力
毎日一篇のエッセイを書き始めて、そろそろ一年になる。振り返れば、一年前の私は文章について驚くほど不勉強だったと思う。そう断言できるのは、今の自分が明らかに変わったからだ。結論から言えば、一年前に書いたエッセイは恥ずかしく … 続きを読む
「写真」という名の呼吸をもう一度
私は小学生のときからカメラが好きだった。 最初のカメラは、父が買ってくれた「フジペット」というブローニ版フィルムを使う、今から思うと大変原始的なカメラであった。 レンズの根元にある小さなレバーを左手の人差し指で押し下げる … 続きを読む
才能の終わりは、成長の始まり ―― 吉村妃鞠から学ぶ普遍的な人生の構造
現在14歳の吉村妃鞠(よしむらひまり)ちゃんのヴァイオリン演奏を知らない人は、もはや少数派かもしれない。 3歳からヴァイオリンの稽古を始め、3ヶ月目にはバッハを弾き、4歳でコンクールに出場、6歳でプロオーケストラと共演 … 続きを読む
入れ墨と美意識 ―― 揺さぶられる日本人の身体観
入れ墨ほど古い歴史を持ち、世界中に存在し、善の印と悪の烙印の両義性を帯びた身体表現は他にない。 旧石器時代にまで遡るその起源を知った今でこそそう言えるが、昭和の価値観の中で育った私にとって、入れ墨は長らく「悪の象徴」であ … 続きを読む
鏡の中の役割の消えた顔
「生きざまは顔に出る」と言われ、「四十歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」とも言われてきた。 しかし私は、その言葉を正面から受け止めて生きてきたわけではない。人に何か言われれば気にすることはあるものの、それで自分の生き方を … 続きを読む
期待し過ぎた私が悪かった ―― 偶像が剥がれ落ちるとき
アメリカに私が勝手に抱いた「偶像」 青春期の私は、アメリカという国に強い憧れを抱いていた。 私はアメリカを「自由と正義の純粋な体現者」として捉えていた。 自由、開拓精神、民主主義 ―― それらは私にとって眩しく、未来 … 続きを読む
数字としての時間/量としての時間
小学校低学年の孫娘が、ひとりで「お泊り」に来たときのことだ。 帰りの時間が迫るなか、母親から持たされた宿題の問題集を取り出し、言われた範囲をなんとか終わらせようと格闘し始めた。 算数の宿題に向かっているのだが、難しいよう … 続きを読む
老いゆく社会と、継承の途絶
「皇位継承資格者の極端な減少という制度的危機」を、日本の天皇制の正統性を壊さずに解決するために、国会では真剣な議論が続いている。 男系男子限定、女性皇族の離脱、戦後の宮家大量離脱 ―― これらが重なり、「制度が自動的に皇 … 続きを読む