近くなった世界、遠くなった追憶

ニュース番組を観ていてると、海外で社会的混乱や自然災害が発生するたびに、決まって現地に暮らす日本人の数とその安否が報道されることに気がつく。 スマートフォンで撮影された彼らの生々しい姿や声が流れるたび、私はその数の多さに … 続きを読む

水無月の道標(みちしるべ)

「水無月の 夏越(なごし)の祓(はらえ)する人は ちとせの命 のぶというなり」   間もなく六月の末日を迎え、今年も半年が過ぎて折り返し地点に到達する。 週に一度訪れる地元の大きな神社。その鳥居の二本の柱の間には、茅(か … 続きを読む

テクノロジーよ、止まれ!

1960年代に子供たちの間で流行した「時間よ止まれ!」という言葉があった。 手塚治虫原作のNHKドラマ『ふしぎな少年』で、主人公が時間を操る際に唱えたセリフがヒットしたものだ。   小学生だった私は、近所の子どもたちと一 … 続きを読む

創作は、焦らずに発酵を待つ

小説家が原稿を「少し書いては破り捨て、また書く」をくり返し、「私の才能は、もう枯れてしまったのだろうか」と苦悩する姿は、昔から映画やドラマでよく見てきた光景だ。   おそらく、小説に限らず、音楽や絵画など、いわゆる「芸術 … 続きを読む

夜明け前の推敲 ―― 終わりのない文章との闘い

小学生の頃、母から「慌てないでいいから、ゆっくり確かめなさい」と何度も言われた。 宿題やテストの結果を見て諭されたときの言葉だが、その声は今でも耳に「タコ」ができたまま残っている。   当時の私は、「できた!」と思うと、 … 続きを読む

私が青年に託したもの

私がかつてタイムラプス撮影の個人事業を行っていたとき、「長期タイムラプス遠隔撮影システム」を開発した。 その撮影装置と技術を引き継ぎたいと、はるばる遠方の地方都市から四十歳年下の青年が訪ねてきた。 彼は映像制作会社の社長 … 続きを読む

物欲が静かな願いに変わるとき

私はいつも、すぐれた機能を持った物や、新しく開発された物に心を奪われて生きてきた。 それは単なる飾りとしてではなく、夢を形にするための「道具・材料」として、常に私を魅了し、支配し続けてきた。   俗に言う「物欲」である。 … 続きを読む

書くことが心の一等席を並び替える

もう私の中では済んだことなのだが、かつて自分が感じていたことを、今朝のNHKの番組で医学的に肯定されたような気がした。 テーマは「嫌なことの忘れ方」。   その中で特に興味を惹かれたのは、ある脳神経外科医の話だった。   … 続きを読む

生きるための死生観

死生観という言葉自体に暗さを感じ、死生観を考えるということに後ろ向きで、どこか悲観的な響きを覚えて避けてしまう人は多い。   実際、死生観をめぐる考え方をAIに入力しただけで、「あなたは 1人ではありません。あなたを気遣 … 続きを読む

何かが間違っている ―― 令和のDV・ハラスメント観

深刻な暴力や支配は、どの時代であっても許されない。   だからこそ、日常生活の中で起こり得るさまざまな衝突をどう捉えるかは、とても大切になる。   昭和生まれの私には、ここ二十年ほどで急速に厳しくなった「DV・ハラスメン … 続きを読む

心の中に絵を描くまなざしは、伝わっていた

子どもたちが立派に成長し、それぞれ家庭を持つようになった。 その日常をじじ・ばばの立場から眺めていると、「あっ」と思う瞬間がある。 血のつながりをふと感じるときである。   娘の、何事にも徹底して取り組む頑張り屋の性格は … 続きを読む

もう送らないと決めたラブレター ―― 山田洋次監督へ

『男はつらいよ』の感想文の形となったエッセイを、私は印刷して山田洋次監督宛てにファンレターと共に送った。 どうしても私の感動を伝えたかったのだ。   深掘り『男はつらいよ』 ― 寅さん映画の神髄とは   しかし、投函した … 続きを読む

誰にも語らない「誇り」の強さ

人生で、自分が何を誇りに思うかなどどうでもよく、楽しく生きられればそれでいい、と考える人もいるだろう。 しかし、誇りとは、自分の人生を肯定するための大切な支えではないだろうか。 誇りとは何か   人には人の数だけ生き方が … 続きを読む

酒が語る未知との出会い

私は若い頃から酒に強かった。どれだけ飲んでも翌朝にはケロリとしている体質で、二日酔いの記憶がほとんどない。 そのおかげで、酒という酒をためらいなく試してきた。 銘柄や種類にこだわる「酒通」ではないが、人生のあらゆる場面で … 続きを読む

四十年越しの友情

もう数年前の話になるが、突然、マルシアルという、四十年前にスペインの大学の学生寮で生活を共にした友人からメールが飛び込んできた。   そのメールは、私に一肌脱いでもらえないかという依頼だった。 四十年ぶりだというのに何事 … 続きを読む

長いものに巻かれないというアイデンティティ

道ですれ違った若い男性を見て、私は思わずはっとした。   懐かしいベレー帽をかぶっていたからである。 ベレー帽は昭和時代に強い存在感を示したファッションで、手塚治虫や富士子不二雄といった漫画家の象徴的なアイテムでもあった … 続きを読む

最期のかたちを探して

人は誰しも最期を迎える。   だが、その話は必ずしも暗いものではない。 どれほど元気であっても、やがて訪れるその時を、私は静かに見つめている。   私の父は大動脈瘤の手術を受けたが、施術に不手際があり、ICUで二カ月半を … 続きを読む

神は怒り、仏は静まる

日本では神社も寺も生活になじみが深い。 早朝の散歩コースは全部で八つ決めてあるが、どのコースを歩いてもどこかの神社か寺を通るように設定してある。 自分の気持ちとしては、それが神社であろうと、寺であろうとまったく差異はなく … 続きを読む

緑の大地と清流の地で

新緑が終わり、すべての生き物が夏へ向かって勢いを増す頃、野山は深みを増した緑に染まり、草木の香りが生暖かい風に乗って私を包む。 梅に始まった春の花の彩りは、いつの間にか幕を閉じ、気がつけば、家々の庭先では薔薇が誇らしげに … 続きを読む

日本が世界に誇る「道」の文化

最近、地元で開催された大相撲地方巡業を観に行く機会を得た。 相撲を観るのは初めてだったので、大いに楽しんできた。   目の前を横切る力士の肌があんなにすべすべして綺麗だとは思わなかったと感動したり、いつもテレビで見ている … 続きを読む

ヒエラルキーの呪縛を超え、矜持を貫く

小説でも映画でもテレビのドキュメンタリー番組でも、描かれる「人生の優等生コース」は、一流企業に就職し、人より早く出世して、課長になり、部長になり、取締役になるというサクセス・ストーリーである。   出世の終着点は、常務、 … 続きを読む

忘却の相互扶助

昨日、昼食のテーブルに着きテレビを眺めていたとき、ふと面白い話題が浮かんだ。 「これはエッセイにしてみたら面白そうだね」と、妻に話すと、「そうね、それは面白そう」と言ってくれた。   夜になり、そのままになっていたアイデ … 続きを読む

「大将」の背中

「大将」と呼ばれる人がいる。 太っ腹で、優しくて、そのうえ矜持を貫いて生きている、格好いい男だ。   部長とか支店長とか専務とか社長とか、職業上の役職でふんぞり返っている人間とは違う。 まったく別の価値基準で人から尊敬さ … 続きを読む

ウクレレがそっとたたく、小さな未来の扉

ウクレレに触れるのは、おそらく六十年振りだ。 孫の男の子の誕生日プレゼントとして、密かに準備している。   通販で購入したウクレレは七千円ほど。 作った人に申し訳ないくらい安いが、おもちゃではなく、大人が普通に使える本物 … 続きを読む

三時に起きた、ひとときの恋人

誰にとっても孫ほど可愛い存在はないだろう。 男の子も女の子もそれぞれ違った特徴と「味わい」があり、甲乙つけがたい。   しかし、じ~じにとっては孫娘が特別の存在であることは、議論の余地がない。 まさに世界一の可愛い恋人な … 続きを読む

QRコードのアクエリアス

科学技術の最前線を走ってきたつもりが、気づけば世界は静かに先へ進んでいた。 孫娘のアクエリアス一つ買うのに、昭和の男はまたしても令和の仕組みに驚かされた。 語れば笑われるかもしれないが、これが正直なところである。 昨夜一 … 続きを読む

人生に描く、自分の美学

昔の映画を観ていると、懐かしい俳優のかつての姿を見ることができるが、次の瞬間、必ず頭をかすめるのが「この人まだ生きているのだろうか」という思いである。   映画『男はつらいよ』は、二十七年間、同じ俳優が同じ役を演じ続けた … 続きを読む

原子を並べて世界を創る時代

人類はこれまで、地球が偶然つくり出した物質に依存して文明を築いてきた。 木材、鉄鉱石、石油、レアメタル──いずれも自然が与えた一次産品であり、私たちはそれを加工して生活を成り立たせてきた。   しかし、それらは有限であり … 続きを読む

背中が物語る壮大な人生

昭和の美学は、いつも私を捉えて離さない。   語らない。 嘆かない。 叫ばない。 振り返らない。   それは強がりではなく、 生き抜いた者だけが持つ静かな矜持だ。   物語に、言葉はいらない。 物語に矜持を貫いた男は語ら … 続きを読む

坂道であることを受け入れる三十年

歳を取るにつれて身体は徐々に衰え、どこかに不具合が出てくる。 まわりを見ていると、還暦を過ぎたあたりからその傾向は一気に強まるようだ。   私の場合は、六十歳を過ぎた頃はまだ健康上の不都合も懸念もなかった。  現役そのも … 続きを読む