「道」を追い、「未知」に憧れる

人生を生きてきたらこそ抱くようになった、来世の夢がある。   私は三十年ほど前から、「来世ではジャンボ機の国際線パイロットになる」と決めて生きてきた。 しかし最近は、それを上回る夢が芽生え、私の心を揺さぶるようになった。 … 続きを読む

我が家に雷が落ちた日

私は我が家への被雷経験がある。 もう二十年くらい前の話である。我が家に雷が落ちた。 落ちた場所は庭に建てたアマチュア無線の鉄塔のてっぺんだった。 そこにはまるで避雷針のような長さ3メートル近いUHF帯の垂直無指向性アンテ … 続きを読む

解明を通して世界を知り、創作を通して自分を知る

解明することと創作することは、一見するとまったく異なる行為に見える。   解明とは、自然や社会に隠されている事実や法則を明らかにすることであり、創作とは、新しい作品を生み出すことである。 前者は真実を探究する営みであり、 … 続きを読む

世捨て人になる

私は自由奔放に生きてきた割には、世の中の不条理に腹を立ててしまう性分である。日々のニュースで報道される、世界のリーダーたちの人間として腐敗し切ったとしか思えないような姿には辟易とさせられる。   世界大戦終結が遠い過去に … 続きを読む

故郷という場所

誰にも懐かしい故郷という場所があるだろう。そこに身を置くだけで心が安らぎ、離れて暮らしていても折に触れて思い出す。そんな特別な場所だ。   私は大分県別府市で生まれ、東京の田無市で過ごした後、三歳のころに東京の練馬へ移り … 続きを読む

こんなに可愛かったのに ―― 時を経て気づいた、あの頃の幸せ

私は長い間、自分がどれほど恵まれていたかに気づかずに生きてきた。結婚し、二人の子どもに恵まれたことも、当時はごく当たり前のことのように受け止めていたのである。 結婚してすぐ、立て続けに長女、そして長男を授かった。何の苦労 … 続きを読む

人は創らずにはいられない

ペンを執って文章を書く。筆をとって絵を描く。五線譜を埋め曲を作る。カメラを構え写真を撮る。 こうした行為は、何かを創り出そうとする営みである。多くの人がそのことに熱中し、自分の感性を絞り出しながら、少しでも納得のいく作品 … 続きを読む

知恵を手にした人類が向かう先

庭の鉢植えの花に小さな蜂が何度も止まっては離れ、また別の花へと飛んでゆく。一生懸命蜜を探し、命をつないでいるのだろう。 生き物は今も昔も変わらない。生きるための営みを淡々と続けている。 そんな蜂の姿を眺めていたとき、ふと … 続きを読む

道路の先の廃屋

私の住む飯能市では、新しい道路が次々と造られている。そのなかでも、私が開通を心待ちにしているのが、全長4キロメートルの新しい道路である。両側にはゆったりとした歩道が整備され、完成すれば市内の交通の流れも大きく変わるだろう … 続きを読む

「まぁいいや。なんてことはないんだよ。」

私にとってバイブル的存在である山田洋次監督の「男はつらいよ」は、単なる娯楽映画ではなく、人間として生きる上での大切な教えに満ちている。その教えを挙げ始めたら、羅列するだけでもひとつのエッセイには収まりきらないだろう。   … 続きを読む

曼殊沙華と姉の影

自宅のすぐ近くを流れる入間川の両岸に曼殊沙華が咲き乱れていた。 台風一過で水量が増し、濁った水が勢いよく流れていたが、両岸の花々は呼吸を揃えながら初秋の歌を奏でているようだった。   私の住む埼玉県飯能市には曼殊沙華の名 … 続きを読む

熱く燃えた季節、灰に残る微熱

私がスペインで「人生を謳歌する」というラテン世界の生き方を学んで帰国した1985年の冬、小林旭の『熱き心に』がリリースされた。   旅先の四季折々の姿に、熱い想いを寄せたまま別れた女をなつかしく想い焦がれる気持ちを重ねて … 続きを読む

休む国と働く国

今年2026年の9月は、11年ぶりに「シルバーウイーク」と呼ばれる大型5連休が成立した。さらに8月も、有給をわずか2日加えるだけで9連休となる暦の並びで、今年は「連休の当たり年」とさえ言われている。 こうした連休の増加は … 続きを読む

見つめ続けた父、向き合わなかった息子

「親孝行したい時に親はなし」というが、親が健在なうちは、孝行どころか、親に向き合い真剣に理解しようと考えたことすらなかった。 そのことに気づき、もっとも大切な存在に正面から接することなく見送ってしまった自分の不甲斐なさを … 続きを読む

無言の意思表示

今年も遠方から、秋の訪れを知らせる果物が届いた。 長野の小海町の知人から送られてきた、地元の特産品である「プルーン」だ。 つい先日、佐賀の親戚から届いた「梨」、大分の親戚からの「カボス」と共に、秋の到来が近いことを実感さ … 続きを読む

心を揺らした小惑星の影

かつて天体観測に情熱を燃やした私が、過ぎ去った日々を思い起こし、気持ちが揺れ、心が静まるまで時間を要したテレビ報道があった。 それは、全国の200人ものアマチュア天文家たちが協力して行った観測プロジェクトの話であった。 … 続きを読む

和解の時間は生者にしかない

生きていく間には、周囲の人間とのいさかいは避けられない。くだらないこと、重さのあること、価値観に関わることなど、その性質と深さは様々だ。   最後まで折り合いの悪かった亡くなった姉のこと。 若くして亡くなった職場の同僚と … 続きを読む

身体に残っていた「絹束」

普段散歩で歩くときに、油断をすると靴の底を「ずっ、ずっ」と擦る音を立ててしまう。脚を持ち上げる力が落ちてしまう、加齢の典型的な現れである。あわてて周りを見回して誰も聞いていなかったことを確認する。 意識していれば起きない … 続きを読む

多くの作品を貫いたサブストーリー

私には人生の中で一貫して追いかけてきたものと、波のように押し寄せる対象を、刀で切り進むように逃さず掴み、骨まで味わい尽くし、最後には骨だけを置き去りにしてきたものがある。 もちろん、どちら敵ではなく、惚れ込んだ対象である … 続きを読む

地球を塗り替える「大移動」

大分の親戚から箱いっぱいのカボスが届いた。毎年頂いているとても楽しみな贈り物だ。その香り高い果実は、絞って焼きサンマにかければ夢心地だ。このためにカボスがあるのではないかと思うほどの、涙が出そうな味のデュエットだ。 絞っ … 続きを読む

怒りと正義 ―― 価値の優先順位が社会を分断する

これだけ多くの人が獰猛なクマの被害に遭い命を落としているにもかかわらず、人里に下りて民家に潜んだクマを、緊急銃猟で駆除した自治体に罵声を浴びせる人が何人もいる。 そんなニュースを見て、人間社会はそうした人々も含めて構成さ … 続きを読む

欲望の美学:利己主義に収斂する世界

世界はいま、国家レベルでの利己主義化という構造変化のただ中にある。 米国は従来の国際秩序の維持役を放棄し、右傾化と排外主義を強め、国境に壁を築き、移民の流入をかつてないほど拒絶している。かつて「自由と寛容」の象徴であった … 続きを読む

最終章の静けさへ

人生の最終章の迎え方には、実に様々なスタイルがある。 第二の人生として新たな目標を掲げ、果敢に挑み続ける人もいる。 その姿は、まるで壮大な音楽に送られる映画のラストシーンのようで、思わず称賛の拍手が湧き上がる。   その … 続きを読む

消え去らない、私が人生で切った世界

私のかつての大学時代の学友だった男とは、今でもやりとりがあって長年の交流が続いている。 彼は最初に勤めた公務員の世界に嫌気がさし、三十になる頃に安定した職を捨てて一般企業に転職した。 当時の公務員の働き方は今ほど厳しくは … 続きを読む

黒い巨人の慟哭

歴史は次から次に思い出を刻み、後世に残していく。 私の記憶の中に、とりわけ幼少時の記憶の中に残る、得体のしれない怪力を秘めた巨人のような存在が蒸気機関車、SLである。   歴史が残してきたものを一つひとつ拾い集める必要も … 続きを読む

両極端の老い

年寄りにありがちな、「両極端」   娘が私と義父を見比べて、笑いながら言った。   「年寄りにありがちな、両極端のいい例だね。」   ついこの間までおしめも乾ききらない小娘だったはずが、今では親に向かって堂々と批評を加え … 続きを読む

クラシック演奏会の矛盾 ―― 制度が選ぶ音楽と心が求める音楽

プログラムの違和感   私は、東京に拠点を置くあるオーケストラの定期演奏会に頻繁に足を運んでいる。自宅から通いやすい場所にある、私の好きなコンサートホールで演奏が聴けることはありがたい。 特別に長い歴史を持つ楽団ではない … 続きを読む

手が届くところに潜む、我がルーツ

昭和の時代は、旅行は特別な贅沢であった。 新婚旅行も国内が普通で、東京に住んでいても、目と鼻の先の熱海が良く選ばれた。 ごく一部の恵まれた人がハワイを選んだと聞けば、周囲は大騒ぎになったものだ。   時代は変わり、海外は … 続きを読む

秘密のヴェール ―― 沈黙の輪郭

沈黙を形づくるもの   私の過去には、声を上げて語ることをためらう出来事が少なくない。 言えない話と、言わない方がよい話、そして言いたくない話。 それらは形を変えながら私の沈黙をつくり、今の私という人間の輪郭の一部を形づ … 続きを読む