我が家に雷が落ちた日

私は我が家への被雷経験がある。

もう二十年くらい前の話である。我が家に雷が落ちた。

落ちた場所は庭に建てたアマチュア無線の鉄塔のてっぺんだった。

そこにはまるで避雷針のような長さ3メートル近いUHF帯の垂直無指向性アンテナが取り付けてあった。

夕立ちが降り出したとき、私は居間でテレビを観ていた。庭に面したテラス窓際で、鉄塔まではわずか2メートル先ほどの距離だった。


突如、ドカーンという耳をつんざくような轟音が響いた。一瞬、庭で火花が散ったように見えた。その衝撃に私は椅子からずり落ちそうになった。

それとまったく同時にテレビは消え、室内の照明もすべて消えた。

私には雷が落ちたことがすぐにわかった。

タワートップの無線アンテナに落雷し、巨大な電流が鉄塔を伝い、アース線を通って地面に流れたのだろうと思った。

ただ、その電流のすべてが地面に流れたわけではなかった。

 

アンテナ線を通って無線機の並ぶ無線室に入り込み、さらに無線機の電源ケーブルを経て、AC100ボルトの屋内配線にも流れ込んだのである。

調べてみると、家中にある家電製品のうち、コンセントに差し込まれていて、なおかつ電源スイッチが入っていた機器は全滅だった。

 

不幸中の幸いは、私自身が無事だったことである。

被雷の瞬間、私はテラス窓越しに鉄塔のわずか2メートル横にいた。もしもっと近くにいたら、私の身体に誘雷を受けていたかもしれない。そうなればまず即死だったろう。

 

心配だったのは、屋内配線を流れた落雷電流が、屋外の配線にも流れ込み、近所に被害を及ぼしていなかったということだった。


翌朝、晴れ渡った空を見上げると、鉄塔の先端にあった垂直のポール状のアンテナの外側を覆っていた白いグラスファイバーが見事に裂け、まるで噴水のように花を咲かせた姿になっていた。

 

不可抗力とは言え、その裂けたアンテナは「犯人は私です」と告白しているように見えた。

その姿を見て私は愕然とし、すぐに腰に安全ベルトを装着し鉄塔に登り、破壊されたアンテナを叩き落とした。

 

私はあの日、雷が自分への脅威になるとは思ってもいなかった。 しかし実際には、一瞬で家中の電化製品が壊れ、一歩間違えれば命を落としていたかもしれない。

 

「まさか」は本当に起こるのである。

 

かなり昔の話なので詳細は記憶にないが、家庭内の被雷による家電製品の被害のほとんどは、加入していた火災保険で補償された。

火災保険という名称だが、火災だけでなく「落雷・破裂・爆発」が基本補償に含まれていることが多く、私の場合もそれが適用された。

 

被雷したアンテナと同じような長さ3メートル近いUHF帯の垂直無指向性アンテナを鉄塔の上に設置している無線局は数多く存在する。私はそのなかで、たまたま落雷の被害に遭ったのである。

もっとも、アース工事をしっかり施していたため、被雷電流の大部分は鉄塔の根元の地中へ流れ、被害を最小限に抑えてくれたのではないかと思っている。


最近発生した熊本地震で壊滅的な被害を受けた地域の人々の話は、聞くだけでも胸が痛む。 地震による損害は、通常の火災保険では補償対象外である。

また、水害については契約内容によって補償の有無が異なる。

 

保険はとかく複雑で、素人には分かりにくい。しかし近年は異常気象や気候変動の影響もあり、災害リスクは確実に高まっている。備えの重要性はますます大きくなっているように思う。

 

地震や洪水、津波などの心配が少ない土地が望ましいことは誰でも分っている。しかし仕事や生活の事情から、そのような理想的な場所を選べる人は少ない。

そもそも日本では、そのような条件を完全に満たす場所を探すこと自体が容易ではない。

 

国民健康保険にはいつもお世話になっている。

自動車保険は何十年も払っているばかりで、一度もお世話になったことがない。保険会社から見たら優良顧客に違いない。

火災保険や生命保険もまた、健康保険とともに余生の暮らしを支えてくれている。

 

どんな保険も、使わずに済むことが何より幸せである。

その点では、保険会社と私たちの願いは一致しているのである。

 

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