時の彼方に消えたスペインと昭和

記憶の中の素晴らしい世界は、時の流れと共に静かに姿を消し、二度と目の前には現れない。 思い出の中にある若き日の美貌に、もう一度触れ恋焦がれようとしても、その姿は夢だったかのように遠ざかっていく。   日本では「古き良き時 … 続きを読む

鍵盤に向かう背中

私はヴァイオリン、妻はピアノを弾いている。どちらも初心者の域を出ないまま、長年つづけてきた。楽しみで弾いているだけなので本来どうでもいいことなのだが、あまりの成長のなさに、くじけそうになることもある。   とくに妻の執着 … 続きを読む

「カメラマンの目」 ―― 光を切り取る感性

情感の世界はいつも私を捉えて離さない。 それは私が持って生まれた感性であり、写真や絵画など視覚に訴えるものは、その感性をもっとも強く刺激する存在だった。 若い頃、私にその感性の核心を教えてくれた出来事があった。 もう五十 … 続きを読む

ROMかRAMか ―― 記憶の設計思想

人間の記憶というものは、つくづく不可思議で、しかも容赦がない。 とりわけ夢の記憶の脆さは顕著だ。目覚めた直後には鮮明だった映像が、布団から足を下ろし、トイレへ向かう数歩のあいだに、砂が指の隙間からこぼれ落ちるように薄れて … 続きを読む

「若いときはいいの」 ―― 四十年越の赦し

「若いときはいいの。歳をとった今がこんなに幸せで本当に良かったわね。」   お隣の奥さんがそう言ったと妻から聞いた瞬間、私は四十年分の自分の歩みが、まるで一枚のフィルムのように巻き戻されていくのを感じた。 その言葉は、私 … 続きを読む

書くことが私を変えた一年間の軌跡

一年前の今日、私はペンを執った。生まれて初めてエッセイを書くことになった。毎日ひとつのテーマについて、自分の知力と感情を絞り出し、生きた言葉で文章を綴り切ることは、私にとって大きな挑戦だった。   私は長い間、自然科学の … 続きを読む

三つの出逢いが私を救った

人生には、仕事や生き方を決定づけるような「支えてくれる人」との出逢いがある。 私のタイムラプス撮影事業を成功へ導いたのは、まさに三つの出逢いだった。     第一の出逢い ― 韓国の友人キム・サングー   先日、Face … 続きを読む

老いの境界線を見つめる ―― 自覚できないその「始まり」

認知症状のある一人暮らしの高齢者を狙った詐欺犯罪が後を絶たない。自分の親や祖父母ほどの年齢の人々を騙し、金をむしり取ることに何のためらいも覚えない者たちは、もはや人間の屑と呼ぶほかない。そして被害者の立場に立てば、なぜあ … 続きを読む

真空管の灯りに宿る私の足跡

どうでも良い「独りよがり」と思われるかもしれないが、「自分にしか価値がない自分の足跡」がどれだけ自分の心を温かく照らしてくれるのか、あらためて知ることになった。 私のいくつかある趣味の中で一番熱中したものは「アマチュア無 … 続きを読む

宇宙探査の精神は、どこで途切れたのか

宇宙を舞台にしたプロジェクトは歴史とともに大きく変化を続けている。 「宇宙探査」という未知の世界への大きな夢で始まった取り組みは、いつの間にか「宇宙開発」と名を変えて、国家威信をかけた競争の舞台を作った。そして今は争奪戦 … 続きを読む

人生の挑戦と冒険に失敗はない

挑戦と冒険 ―― 目標に向かう者と、目標を探す者の物語   人生には、二つのまったく異なる旅がある。 ひとつは、すでに定められた目標へ向かって歩む「挑戦の旅」。 もうひとつは、目標そのものを探し求めて歩く「冒険の旅」。 … 続きを読む

AI時代の価値観と世代交代

私は、これから人間社会の価値観がかつてないほど大きく変容し、いずれ「自分はこの変化についていけなくなる」と感じる時が訪れると確信している。 その変化を推進する主役は、AIとともに育つこれからの世代の人々である。   私は … 続きを読む

「見上げてごらん、夜の星を」

私の人生には、星空に心を奪われた二つの時期がある。 一つは、未成熟ゆえの衝動に満ちた中学時代の三年間。 もう一つは、社会のただ中で全力投球していた四十代半ばから五十代半ばにかけての十年間である。 中学時代──世界が開き始 … 続きを読む

祖国を離れる理由・戻らない理由・こだわらない理由

人がどこに住むかという選択は、普遍的な感情ではなく、個人の経験と状況によって大きく揺れ動く。 祖国を選ばない人 ―― 魅力による移住   海外留学や旅行をきっかけに滞在先の文化に惹かれ、そのまま定住してしまう人は少なくな … 続きを読む

「自然の摂理」が危険なクマを可愛いと感じさせる意図

近年、クマが人間の生活圏へ侵入し、山中でも狂暴化して駆除の対象となる事例が増えている。 ビデオに記録された人を襲う姿や、箱罠にかかって逆上し牙を剝く様子は、見る者を戦慄させるに十分だ。   その凶暴な姿を目にするたび、私 … 続きを読む

物は陳腐化しても形は残る、心はいずれ記憶の主体を失う

オーディオの世界では、今や背の高いタワー型の箱に小さなスピーカーを複数個取り付けて、立派な重低音と拡がる音場空間を実現するシステムが主流だ。どこに行っても、かつて一世を風靡した巨大なフロアー型スピーカーにお目にかかる亊は … 続きを読む

感謝がひらく明日の一日

久しぶりにSNSでつながった学生時代の友人が、挨拶の冒頭でいきなり「両膝変形膝関節症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアと診断されています。」と病名を並べた。 五十年以上の空白を埋める最初の言葉がそれだったことに、彼の胸に積も … 続きを読む

神々しい先輩 ―― まなざしの継承

体育会系の世界には身を置いたことがない私は、社会人として第一歩を踏み出したとき、職場で出会った先輩達に礼を尽くすこともなく、まるで同輩に接するような態度で振る舞っていた。先輩諸氏から見れば、これほど可愛くなく、腹の立つ後 … 続きを読む