エッセイ
日本のラジオ体操が生みだした、朝の至極のとき
ラジオ体操の「元祖」が、1925年にアメリカの生命保険会社が始めたラジオ放送である事実は、あまり表舞台で語られない。 当時、現地を訪れた日本の簡易保険局(現在のかんぽ生命)がその試みに着目し、NHKと手を結んで1928年 … 続きを読む
近くなった世界、遠くなった追憶
ニュース番組を観ていてると、海外で社会的混乱や自然災害が発生するたびに、決まって現地に暮らす日本人の数とその安否が報道されることに気がつく。 スマートフォンで撮影された彼らの生々しい姿や声が流れるたび、私はその数の多さに … 続きを読む
水無月の道標(みちしるべ)
「水無月の 夏越(なごし)の祓(はらえ)する人は ちとせの命 のぶというなり」 間もなく六月の末日を迎え、今年も半年が過ぎて折り返し地点に到達する。 週に一度訪れる地元の大きな神社。その鳥居の二本の柱の間には、茅(か … 続きを読む
家族を支えた足跡 ―― マリオンとリカルドが遺したもの
外を歩いていて散歩中の犬に出会うと、今でも毎回心がときめく。 すれ違いざまにリードが引かれ、こちらに鼻をクンクンさせて寄ってこようとする姿を見ると、愛おしくて仕方がなくなる。 一度触れ合わせてくれた犬は、次からは遠くから … 続きを読む
なぜ私はここで書き続けるか
どんなきっかけでこの場を見つけ、エッセイを書くようになったのか、細かいことは覚えていない。 ただ、漠然と現役を引退した心の空虚感を埋めようとしてペンを執ったことだけは間違いない。 私は自分勝手に、やりたいことに熱中し … 続きを読む
テクノロジーよ、止まれ!
1960年代に子供たちの間で流行した「時間よ止まれ!」という言葉があった。 手塚治虫原作のNHKドラマ『ふしぎな少年』で、主人公が時間を操る際に唱えたセリフがヒットしたものだ。 小学生だった私は、近所の子どもたちと一 … 続きを読む
創作は、焦らずに発酵を待つ
小説家が原稿を「少し書いては破り捨て、また書く」をくり返し、「私の才能は、もう枯れてしまったのだろうか」と苦悩する姿は、昔から映画やドラマでよく見てきた光景だ。 おそらく、小説に限らず、音楽や絵画など、いわゆる「芸術 … 続きを読む
夜明け前の推敲 ―― 終わりのない文章との闘い
小学生の頃、母から「慌てないでいいから、ゆっくり確かめなさい」と何度も言われた。 宿題やテストの結果を見て諭されたときの言葉だが、その声は今でも耳に「タコ」ができたまま残っている。 当時の私は、「できた!」と思うと、 … 続きを読む
私が青年に託したもの
私がかつてタイムラプス撮影の個人事業を行っていたとき、「長期タイムラプス遠隔撮影システム」を開発した。 その撮影装置と技術を引き継ぎたいと、はるばる遠方の地方都市から四十歳年下の青年が訪ねてきた。 彼は映像制作会社の社長 … 続きを読む
物欲が静かな願いに変わるとき
私はいつも、すぐれた機能を持った物や、新しく開発された物に心を奪われて生きてきた。 それは単なる飾りとしてではなく、夢を形にするための「道具・材料」として、常に私を魅了し、支配し続けてきた。 俗に言う「物欲」である。 … 続きを読む
書くことが心の一等席を並び替える
もう私の中では済んだことなのだが、かつて自分が感じていたことを、今朝のNHKの番組で医学的に肯定されたような気がした。 テーマは「嫌なことの忘れ方」。 その中で特に興味を惹かれたのは、ある脳神経外科医の話だった。 … 続きを読む
元号が映し出す歴史の足跡 ―― 明治から令和へ
日本が誇る独自の制度に「元号」がある。 1968年、明治政府が「天皇一代につき元号は一つ」と定めて以来、天皇の代替わりごとに新しい元号が生まれ、時代の節目を刻んできた。 戦後、元号制度を定めていた旧皇室典範は廃止され … 続きを読む
何かが間違っている ―― 令和のDV・ハラスメント観
深刻な暴力や支配は、どの時代であっても許されない。 だからこそ、日常生活の中で起こり得るさまざまな衝突をどう捉えるかは、とても大切になる。 昭和生まれの私には、ここ二十年ほどで急速に厳しくなった「DV・ハラスメン … 続きを読む
心の中に絵を描くまなざしは、伝わっていた
子どもたちが立派に成長し、それぞれ家庭を持つようになった。 その日常をじじ・ばばの立場から眺めていると、「あっ」と思う瞬間がある。 血のつながりをふと感じるときである。 娘の、何事にも徹底して取り組む頑張り屋の性格は … 続きを読む
小さな背中に託すもの
いつの間にか、中国による台湾統一の可能性が現実味を帯びて語られるようになり、中国の海洋国家化を警戒して防衛戦略の再構築が迫られている ―― そんな見出しが新聞の一面を飾る日が続いている。 ついに政府内部でも、その日が来た … 続きを読む
もう送らないと決めたラブレター ―― 山田洋次監督へ
『男はつらいよ』の感想文の形となったエッセイを、私は印刷して山田洋次監督宛てにファンレターと共に送った。 どうしても私の感動を伝えたかったのだ。 深掘り『男はつらいよ』 ― 寅さん映画の神髄とは しかし、投函した … 続きを読む
商店街を練り歩く昭和の音楽隊 ― ちんどん屋
テレビでサン・サーンスのクラリネット・ソナタが流れていた。 軽やかに転がり出るような音色を聴いているうちに、七十年近く前の記憶がふっと浮かんだ。 子どもの頃、街角でよく見かけた「ちんどん屋」の華やかな姿である。 ちん … 続きを読む
分断する世界と暴走する技術
人類は常に変革の中を生きてきた。 しかし、昭和の価値観で育った私には、目の前を通り過ぎている変化を、穏やかな気持ちで見届けるのは難しくなっている。 技術と社会の進歩が、かつてなかった規模と速度で私たちを吞み込んで … 続きを読む
誰にも語らない「誇り」の強さ
人生で、自分が何を誇りに思うかなどどうでもよく、楽しく生きられればそれでいい、と考える人もいるだろう。 しかし、誇りとは、自分の人生を肯定するための大切な支えではないだろうか。 誇りとは何か 人には人の数だけ生き方が … 続きを読む
言葉が世界を変えるとき
外国語とは、忘れたと思っていた記憶を一瞬で蘇らせる、不思議な鍵のようなものだ。 その鍵が開くのは、かつて自分が夢中で生きていた時間であり、そこで出会った人々の声であり、あの頃の自分自身である。 外国語を学ぶ事の素晴ら … 続きを読む
酒が語る未知との出会い
私は若い頃から酒に強かった。どれだけ飲んでも翌朝にはケロリとしている体質で、二日酔いの記憶がほとんどない。 そのおかげで、酒という酒をためらいなく試してきた。 銘柄や種類にこだわる「酒通」ではないが、人生のあらゆる場面で … 続きを読む
長いものに巻かれないというアイデンティティ
道ですれ違った若い男性を見て、私は思わずはっとした。 懐かしいベレー帽をかぶっていたからである。 ベレー帽は昭和時代に強い存在感を示したファッションで、手塚治虫や富士子不二雄といった漫画家の象徴的なアイテムでもあった … 続きを読む
七千円の貸しと泡の謎
週に一回、妻と大型スーパーへ食料品の買い物に行く。 支払いは現金のみの店だ。 私の楽しみである晩酌の酒代とつまみ代は、家計費からではなく、私の小遣いから払うことにしている。 昔と違って、趣味に浴びるほど金をつぎ込むこ … 続きを読む