我が家には大分年季が入ったマッサージ・チェアがある。 このマッサージ・チェアは35年前、私が39歳だった頃購入したものだ。 ロール・揉み・叩きの3動作をし、背もたれもリモコンで後ろにほぼ水平に寝られるまで傾いてくれる。 革張りではない布張りだし、動作も単純で、今のマッサージ・チェアと較べたら見るべくもない旧式だ。
これがなんと未だにちゃんと動作しているから驚きだ。 私みたいな大男が身体を預けるのだから、かなりの機会的負荷がかかっているだろうに、35年間も故障無しと言うのは、設計者・製造者の素晴らしさにただ感服するのみである。 電化製品であろうとどんな製品であろうと、35年間無事に働き通すと言うのは並大抵の事ではない。 特にこう言った機械物はなおさらだ。
もちろん、35年間の使用状況はその時々によって、毎日使う事があったり、しばらく使わない時があったりで、特に使用頻度は高くはなかったと思うが、最近は毎食後30分ほどテレビの前で身体を預けてお世話になっている。 以前はこの「電動」マッサージ機ではなく、全く電気代もかからない「人動」マッサージにお世話になっていたが、さすがに歳で疲れ気味の彼女にこれ以上は申し訳ないと反省し、この電動マッサージ・チェアを使うようになった。
実際に使ってみると、なかなか具合がいい。 第一「もう疲れた!」と言わない所が良い。 「揉むのは疲れる。叩くのがいい。」とも言わずに幾らでもやってくれる。 ただどんなにマッサージ・チェアが良くても、人動マッサージの手揉みの気持ち良さにだけは絶対に叶わない。 今の最新のマッサージ・チェアはどうなのか凄く興味がある。
若い頃はあんまり身体がこると言う事はなかったし、のんびりくつろぐと言う時間がもったいなくもあり、マッサージにはあまり精を出さずに遊びに夢中になっていたような気がする。 しかし高齢者となった今の私には本当にありがたい存在である。
このマッサージ・チェアは孫達にも大人気で、一度教えたら毎回遊びに来るたびに飛び乗って、勝手にスイッチを入れてキャーキャー喜んで遊んでいる。
マッサージ・チェアと言うと亡くなった母を思い出す。 母は大変几帳面な性格で、いつも家の中は綺麗に掃除して、整理をきちんとしていた。 それが85歳を超えた頃を境に、家に行くと、部屋中が色々な物で散らかしっぱなしになって来た。 部屋の真ん中に立派なマッサージ・チェアがあったのだが、その上に脱いだ服とかが雑然と置かれているのに目を疑った。 少なからずショックを受けた。 そう言うだらしない事は絶対出来ない人だったからだ。
そんな事があってしばらくして、母を介護施設に入所させてお世話をして貰うようになった。 母は90歳で他界したが、晩年は施設に会いに行くと、いつも部屋に置いたマッサージ・チェアに身体を預けてうとうとと昼寝をしながらテレビを見ていた。
こんなに毎日毎食後マッサージ・チェアにもたれてくつろいでいると、ふと晩年の母を思い出す時があり、そんな時はこのまま後を追って行きそうな気がしてハッとしてマッサージをやめてしまう。
そう言えば、身体がこるようになったと言う事自体が老化の裏返しなのかもしれない。 72歳の若さで他界した父も、晩年は畳の上で腹ばいになり、母に背中を踏んでもらうのを楽しんでいた事を思い出す。
いつの間にか35歳の我がマッサージ・チェアと私のどっちが先に逝くか競争が始まってしまった様だ。 「マッサージ・チェアよ、必死になってついて行くから50歳までは頑張ってくれ!」 私の悲痛な叫びだ。