スタンドプレー

観客席の観客への受けを狙ってプレーする事から、本来の目的から外れてアピールの為に行う行動をスタンド・プレーと呼ぶ。 いわゆる受け狙いだ。 見ているとこれは別にスポーツに限った事ではない。 大衆を相手に「見せる」シーンがあるものなら、何でも可能性はあるようだ。

 

先日聴きに行ったクラシック演奏会は強烈だった。 開始のブザーが鳴り、舞台の袖から指揮者が出て来る。 会場には拍手が沸き上がる。 指揮者が指揮台に近づくに従って拍手は大きくなる。 指揮者が指揮台に立つ為、片足を指揮台にかけようとした瞬間、事もあろうにその指揮者は指揮棒を振り下ろした。

 

あらかじめ指示されていたのであろう。 オーケストラは一斉に最初の音をジャ~~ン!と出して演奏を始めた。 私はあっけにとられた。 まだ会場には拍手が鳴り響き、指揮者は指揮台に上り切っていないのだ。 指揮者はかまわずそのまま指揮台に上って演奏を続けさせた。

 

もちろんクラシックの演奏会でこんなシーンに出くわしたのは初めてた。 指揮者が指揮台に上がって、観客が拍手を終えて静かになってから、おもむろに演奏を開始するのが普通なのは言うまでもない。 拍手を続けている観客にあまりにも失礼であり、かつ乱暴な演奏開始は私の心を完全に乱した。

 

一事が万事、驚きはそれだけでなかった。 指揮者は明らかに指揮台の上でダンスを踊り始めたのだ。 本人はそれが良い指揮だと思っているのだろう。 よくぞ指揮台から落ちないと思うぐらいオーバーアクションで上半身と両手を振り回し、下半身も大暴れの物凄いダンスを始めた。 拍子を刻んだ動きは右手の指揮棒にはほとんどなく、私がオーケストラの演奏者だったら本当に困惑するのではないかと思った。

 

私は、中学生時代にブラスバンド部に入り校庭を行進しながら演奏する一隊を先頭に立って率いて指揮をしていた事を思い出した。 音楽担当の先生から飛んだ声が忘れられない。「踊るな!!」 私は先頭を指揮棒を振りながら前進してたのだが、腰から下の下半身を膝を音楽に合わせ曲げたり伸ばしたりして踊っていたのだ。 もちろん行進するブラスバンドの指揮とクラシック演奏会の指揮は全く別物ではあるが、基本的に指揮者は踊る物ではないのだ。 第一見ていて確かにみっともない。

 

さて、その指揮者は第二楽章の静かで穏やかな曲に入ったら、こんどは両手を下に垂らしたまま全く動かなくなった。 私は何が起こったのかと思った。 ほとんど動かないまま、全く指揮をしないまま第二楽章が終わった。 信じられなかった。 感情的に第二楽章に良くある抒情的な調べに対し、指揮者は棒立ちすることで情感の世界を演じ切ったつもりだろうが、演じるのは楽器をかかえた演奏者であり、指揮者はそれを統率し導く役割ではなかったのか。

 

最後の最終楽章でのダンスがどんな狂乱であったのか言わずとも想像ができると思う。 私の耳に音楽は全く入って来なかった。 私を含め多くの観客は、オーケストラの演奏者の演奏の様子は記憶に残ってないのではないだろうか。 その前であれだけ大きく激しいパフォーマンスを繰り広げられたら無理じゃないかと思った。 私は一体何を聴きに何を観に来たのかと思った。

 

かくして私は生まれて初めて「クラシック・パフォーマンス・ショー」なるものを体験したのだが、新進の若い指揮者としては、とにかく目立って個性を売り出したいのだろうと思った。 その意気込みだけは評価し理解できる。

 

政治家の中にもスタンド・プレーに力を入れている人を見かける。 やたら自分が実現した成果を繰り返し強調して印象付けようとする。 自分こそが称賛されるべきだと何回も堂々と発言する政治家までいる。 私には実に醜くく見える。 特に政治の様な表舞台で良い仕事をした人は、黙っていても見えるし評価されるのに。

 

要は自己アピールだ。 どの世界のどんな人にも必ず支持者がいるので、このスタンド・プレーは支持者には大喝采で迎えられる。 くだんの指揮者も政治家も支持者にとってはたまらない素晴らしい存在に違いない。 しかし支持しない側から見たらこれほど不快な物はないだろう。

 

私はこういうスタンドプレーは例えどんな物であっても見たくない。 自分が否定的に思う物はもちろん、肯定的に思う物も見たくない。 TVで登場した場合はリモコンのスイッチを押せば回避できる。 しかし今回味わわせて貰った演奏会のように、こちらからその場に参加する物の場合は、 始まったあと途中で席を立つ事はそれこそ失礼だからできない。

 

事前に情報を良く調べて確認しておくしか対処ができない。 長い人生で今までそんな必要を感じた事は一度もなかったが、今は時代の変化と共に色々な「クリエイティブ」なプレイヤーが出て来ている事を十分に考慮して、しっかりと事前に情報収集をして確認するつもりだ。

 

 

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