サラリーマン時代、毎日片道2時間近い電車通勤に耐えて来た反動で、この15年近く電車には一切乗らず、どんなに道路が渋滞してようと車に乗って来た。 それが、最近になって個人事業を廃業し仕事で使用していた車を処分してしまった事もあり、映画や演奏会に行く為に渋々と2,3度立て続けに電車に乗って都心まで行く機会があった。
嫌な思い出ばかり残っている混雑した乗換ターミナル駅を避けれるように、地下鉄直通乗り入れ列車を選択したり、途中駅から地下鉄路線に乗り換えたり、出来る限りの抵抗をしての電車乗車である。
15年ぶりの電車に乗って一番驚いたのは、車内の光景が昔と全く変わっている事だった。 しげしげと車両の中を端から端まで何度も見渡したが、全員が全員、同じ格好、同じ姿勢で、同じ角度で腕を出し、同じ様にスマホを持って操作している。
一人くらいそうでない人がいるだろうと思って見回したが、少なくとも私が乗ったその車両には一人も例外はなかった。 15年前は本を読んでるか、ポータブル・プレイヤーで音楽を聴くか、目をつぶって寝てるかだった。 この変わり様には本当に絶句してしまった。
スマホで何をしているかは、帰りの電車に乗って分かった。 外が夜で暗くなっているので、座っているお客さんの後ろの窓ガラスにスマホ画面が映っているからだ。 見たところ、多いのはゲームまたはSNSだった。
そう言えばまだ5歳の孫が遊びに来ても、すぐに私のスマホに手を出す。 誰に教わったのか見事に操作してYouTubeを観ている。 7歳の子は花の絵を描きたいと言うのでクレヨンと紙をあげると、スマホで花の画像を検索して「どれがいい?」と聞いて来る。
その親である娘に聞いてみると、共稼ぎでとても子供たちの面倒を見切れない時は、スマホを与えて置けばおとなしくしてくれるからスマホを与えている、と言う。 まぁ理解できないでもない。 昔の専業主婦だったら絶対にしなかった事だ。
最近は地方自治体までが諸手続きをスマホでできるようなアプリを開発したり、Webページをスマホでも見やすいレイアウトにしたり、世の中すべてがスマホが前提になりつつある。
私の妻もLINEはメガネをかけながらスマホでやっている。 せっかく大きなタブレットを用意してあげたのにスマホがいいらしい。 若い人達を見ているとあの小さなスマホを両手で持って、文字入力を親指二本で高速打鍵、実に見事だ。
私は圧倒的にパソコン派である。 スマホを愛用しているが、あくまでも家を離れた時の移動先でのアイテムだ。 カメラ代わりになるし、色々なアプリをインストールして多くの事に使っている。 はやりのChatGPTも愛用している。 スマホにはスマホのメリットがある。 しかしパソコンの代用はできない。
理由は私が述べるまでもないだろうが、キー入力ひとつとっても、パソコンでの指10本使った打鍵速度は圧倒的に速く、手元を見なくても打てる。 大きなキーボードでストロークもしっかりあるので、誤入力も少ない。 複雑な検索はパソコンの方が遥かに簡単で速い。
また、エクセルなどで大きな表を取り扱う時、複雑で精緻な画像処理をする時などはスマホではどうにもならない。 使用できるアプリの数や多様性はスマホと比較にならない程多いし、インターフェースを介して外部機器を操作ができるなどパソコンの独壇場を上げたらきりがない。
そう思って最近の若い人達の様子を見ていると、家でパソコンを使っている人自体が減って、スマホをパソコン代わりに使っている様だ。 ひと昔前と比べ、スマホの画面は大きくなり、機能が強化され、どこでも使えると言う便利さがある。
更にパソコンには無いスマホ特有のメリットとして、カメラが一体化されている点が凄い。 それも動画も撮れるのだら、昔のようにカメラとビデオカメラをぶら下げて歩く必要もない。 パソコンはある程度の専門性がある事を前提に最大の機能と可能性を求めて発展して来た万能な電子機器なのに対し、スマホは万人が愛用し使いこなせる事を前提に携帯電話から進化してきた携帯用電子機器だ。 この万人向けの携帯用ツールと言う物の存在意義の大きさには計り知れない物がある。
私は昔から一眼レフを酷使する写真撮影のマニアだったし、大型のビデオカメラを回して動画も沢山撮って来た。 その目からしても、最近のスマホの映像撮影に関する寄与度には目を見張るものがある。 初期のスマホはガラケーとはほとんど変わらない性能のカメラしか搭載してなかったが、最近のスマホのカメラは安物のカメラやビデオカメラの性能を遥かに凌いでいる物まである。 誰もが身に着けていて事故や災害時に臨機応変に即撮影できるので、ニュースに良く「視聴者撮影」と記したタイムリーな動画が投稿されている。 この面でスマホが社会に果たしている貢献度はとても高い。
私は日本のパソコンの黎明期(1970年代)からパソコンに親しんで来たパソコン・ユーザーだ。 パソコンにとことん惚れ込んで徹底的に使い込んて来たユーザーではあるが、スマホを日々身から離す事なく愛用しているユーザーでもある。 スマホは日々進化していて、今後さらに機能を高め、ユーザーの満足度は際限なく上がって行くだろう。
しかし、そもそもパソコンはスマホの代わりはできないし、いくら進化してもスマホはパソコンの代わりはできないのだ。 スマホとパソコンの関係は、ちょうど最近流行りのハンディ・ファンとエアコンの関係みたいなものだ。 お互いに上下関係はなく、ただ使うシーンと果たせる能力が全く違う物なのだ。
パソコンのハード・ユーザーの私は、もしパソコンがなかったらこの50年間自分が成し遂げて来た事の大半は実現しなかったと思う。 だからスマホと言う現代最強の電子機器を使いこなしている人達が、今一歩手を伸ばしてパソコンにも親しむ事ができたら、必ずや満足する事になると確信している。
それこそが、機械に弱い万人を熱心なユーザーにしてしまったスマホに託された、電子機器の歴史上に名を残す最大の役割であると思っている。