駄目元の挑戦

この歳で60数年前の幼少期に2年間ほど習っただけのバイオリン演奏に挑戦を始めて3カ月ほど経つ。 なんとかかろうじてMy Wayが弾けるまでにはなったが、一筋縄ではなかった。

 

73年間生きて来た間に身体にはガタが来ているからだ。

 

まずひとつは高校生時代に体育の授業でトランポリンの空中回転で回り損ねて頭から落下して負った「むち打ち症」である。 当時はまだ一般的な症状名でなかったので、外科でレントゲン撮影したが「異常なし」で片づけられたのがそもそもの始まり。

 

それから10年後、会社で勤務中に背中に猛烈な痛みが来て都内の有名な外科医を訪れた。 今でも忘れないが、椅子に腰かけた太った女性の院長先生がカパッと大きく股を開いた姿勢で私を向きながら、「あんた!これは大変な事になるよっ!40超えたら首から下が全く動かなくなるよっ!」と宣言をしたのだ。

まぁ、今でも一応動いているので、それは脅しか誤診だったのだが。

 

親戚の医者に会社の医療センターで撮影したレントゲン写真を送ったところ、頸椎がやられて軟骨がつぶれてるとの事で、首を伸ばすために天井から吊るす医療器具を送ってくれ、そのおかげもあって現在に至っている。

 

しかし、基本的にむち打ち症の後遺症を引きずっている。 右腕に力が入りにくく、右腕の筋肉もすっかり痩せてしまった。 そして右の指の制御がすごくしにくい。 指には力が入らず、例えば水の入ったコップを右手の5本の指先で上から掴んで持ち上げる事が出来ない。 PCでキーボードを打っている時も以前は両手で手元を見ないでさらさらと素早く文字入力ができたが今は右手の指が突っ張り勝ちなのでそうはいかない。 誤字入力がとても多い。

 

さて、バイオリンを弾く時の右手の役割はボウイングと言って弓を上げ下げさせるのだが、この肝心な動作を微妙にコントロ-ルするのが難しい。 調子悪い時は弓自体が弦の上でプルプル震えてしまうのだ。

 

これに加え、バイオリンを構える時に、バイオリンを片側の肩に乗せ、バイオリンの上から顎を軽く下ろして楽器を挟むようにするのだが、ちょっと無理すると、首が痛くなってしまうのだ。

 

もうひとつおまけがある。 これはまさに自業自得で同情の余地は全く無いない話なのだが、40代のころ会社の仲のいい同僚達と、毎晩のように業後酒を飲んで騒いでいたのだが、4、5人でカラオケで酔っぱらって大騒ぎしながら大合唱をしていた時、おちゃらけて私が歌うのを邪魔した奴に右手で一撃を喰らわしてしまったのだ。 そのたった一撃で右の小指の一番先の間接が骨折したのだが、医者に1回行っただけで放って置いた為、一番先の間接が若干鍵型に曲がったまま固着し力も入らなくなってしまったのだ。

これはバイオリンの弓を持つのにかなり致命的で弓を安定的に持って操作する事が難しいのだ。

 

これらのハンディを抱えながらの挑戦はかなり無謀に思われた。 しかし世の中には生まれつき失明しているピアニストがいたり、片手しかなく片手だけで弾くピアニストがいるんだからと、妻から励まされながらここまでやって来た。

 

私の60数年ぶりの挑戦は、障害を抱えた挑戦でハードルは高い。 右腕、首、右小指はバイオリンと言う楽器を構えて弓を動かす重要な体の部位だ。 そこに障害があるのでは、この挑戦は無理なのではないかと考えてしまう時もある。 しかし障害があるのが左手だったよりか遥かにましだと考えると、本当に九死に一生を得た気がする。 左手指はギターと同じ様に弦を抑える要の部位で、ここが不自由だったら音は出せても音符通りに音程を取ることはできず絶望的だった。

 

そんな最悪の事態からは救われているとポジティブな面も考えてみたら少し気は楽になった。 そればかりか、出来なくて当たり前、出来なければならない理由は何処にもないのだから、出来たら儲け物と考えたらかなり気が楽になった。

 

人生では出来なければ困る事ばかりで、若い頃から必死に頑張って生きて来た事を思い起こせば、こんな楽しい挑戦はない。

身体をなんとか制御できている限り、あきらめずに何処まで到達できるか楽しみに挑戦して行きたい。

 

コメントする