その時は順不同で唐突にやって来る

60代の半ば頃から、かつての同僚の中で亡くなった人の話を良く聞く様になった。 私の12年後輩も相次いで亡くなった。 一人は元々持病を持っていたいつもだるそうにしていたので「ああ、やっぱり」と思った。 毎年の年賀状を見た彼の親族が手紙で知らせてくれた。

 

もう一人は元気一杯で、絶対私より長生きする人だと思っていたので驚いた。 久しぶりにまた飲みに行こうと誘いに彼の自宅に電話したら、奥様が出て来て「実は主人は3ヶ月前に・・・」と話してくれた。 朝起きたら亡くなっていたと言う突然死だった。

 

二人とも飲み仲間でもあり、銀座の隣の築地界隈で毎晩の様に飲み交わした仲間だった。 前者は50代の終わり、後者は60代の始めと言う若すぎる死だった。

 

 私が就職した当時は「古い昭和の時代」マックスだった。 入社当初の支店長はのんびりとした優しい支店長で、飲むと「へそから下は別人格!」と豪語する人気者だったが、それは全店の中では例外的存在だった。 他の支店では支店長によっては、地獄の様なパワハラが繰り広げられていた。

 

支店長が交代で新しい支店長が異動して来る事になった時、前任店から人づてに前評判が伝わって来た。 「前任店では2人殺された」と言う話が伝わって来た。 大学を卒業したばかりの私にはかなりショックな話だった。 しかし噂に違わずモンスター級のパワハラ支店長だった。 毎晩夜遅くまで渉外課の人間を集めた渉外会議が開かれ、皆の前で一人ずつ徹底的になじる吊るし上げが繰り広げられた。 私は幸か不幸か間もなく大阪に転勤となったので、ほとんど実害は被らなかった。 今だったらその支店長は、あっと言う間に引きずれ下ろされていただろう。

 

その後、私がまだ30代の初めだった頃、会社の家庭寮(集合住宅)に住んでいたが、隣の棟の40歳くらいの先輩が亡くなった。 死因はいわゆる「突然死」だった。 私の頭に初任店で出会ったモンスター級パワハラ支店のが思い出された。

 

 現役時代にそりが合わず腹立たしく思った上司も、亡くなったと知れば冥福を祈らずにはいられない。 そしてそんな過去を思い出す事自体が、無抵抗のその人を一方的に痛めつけているように感じて、空しく思ってしまう。

 

自分を評価し、良くしてくれた上司が亡くなったと知れば、絶対に信じたくないと思う。 そして私に掛けてくれた期待に応えられなかった事に対し、本当に傷つけるような仕打ちをしてしまったと自分の深い罪を感じてしまう。

  

もう一年位経つが、本当に落ち込んでしまう事があった。 当時アラスカに住んでいたアメリカ人の人生の恩人と呼べるほど親しくお世話になった知人が消息を絶った。 50数年前、アマチュア無線でお空で知り合った人だ。 その人は歳をとってから離婚した上、脳梗塞を患って、郊外のゆったりとしたアパートで静かな老後を一人で過ごしていた。

 

無線交信はもうお互いに何年もしなくなっていたが、時々手紙のやりとりは続いていた。 手紙の内容がだんだん意味不明になって来てだんだん私は不安になっていた矢先、出した手紙が「宛所に尋ねあたりません」と返送されて来た。 あぁ、遂に・・・と思った。 遠い外国で付近に身寄りもなく一人で暮らしている人の安否は確認しようもない。

 

 そんな事があった後、ちょっとした騒ぎがあった。 私の現役時代の一年後輩は私が一番尊敬する大切な友人で、時々手紙を交わしている。 彼は非常に礼儀正しく几帳面な男なので、私が手紙を出すとすぐに折り返し返事が届く。 それも縦書き便箋に丁寧な万年筆の手書き封書で届く。

 

先日久しぶりに手紙を出したのだが、いつまで経っても返事が来ない。 そんな事は今まで一度もなかった事なのでどうしたのだろうと思った。 さらに1週間待ったが返事が来ないので、体調でも崩したのかと心配になり、電話をすることにした。 彼の携帯に掛けたが留守電になってしまう。 23日置いてまた電話しても同じである。 そこで彼の家の固定電話に掛けてみた。 それも留守電になった。

 

さすがに私の頭の中に不安がよぎった。 そう言えば彼の身体は丈夫そうではなかった。 ついに逝ってしまったのではないかと思った。 彼は仕事上の付き合いが多く、しかもつい最近まで勤めていたので、同じように不思議に思った人からの消息を尋ねる電話が殺到して、残された奥様が耐え切れず留守電にしているのかもしれないと考えた。 そうならばそっとしてあげるしかないと思った。

 

若い頃彼の家に遊びに行った事があり、とてもいい奥様だったのを覚えていたのでなお更だった。 もうどうしようもできない。 このまま何も確認する手立てもないまま時が過ぎて行くのかと、世の無常すら感じた。

 

それから一週間ほど経ったある日、妻が「〇〇さんから手紙が届いているわよ!」と私の部屋に封書を持ってきた。 その彼からの手紙だった! 私は飛び上がって喜んだ。 その手紙には、「返事が遅くなって申し訳ありません。実は妻と一緒に海外旅行に出掛けていました。」と書いてあったのだ。

 

思わず椅子からずり落ちそうになった。

 

次の瞬間何があってもおかしくない、そんな年齢に達した今、こんな笑い話がひとつでも多く続く事を願っている。

 

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