見たいものには蓋をする

息子は高校時代に野球部活動に夢中になっていた。 ついにレギュラーにはなれなかったが、好きさと熱心さは誰にも負けなかったようだった。 私はそれほどスポーツには夢中にならない方なので、野球も細かいルールまでは良くは知らない。 プロ野球のTV放送を一緒に見る機会がある時、息子に質問すると明快な答えが即座に返って来る。 さすがだ。

 

息子が帰省して来た時、たまたま高校野球のシーズン中だった時があった。  高校野球のニュースがTVで流れ始めたので、食い入る様に見るのかなと思ったら、ちょっと不快な顔をして目をそらしているようだ。 意外だったので訳を聞いてみたら、好き過ぎて見始めたらそれこそ入魂してはまってしまうのが怖いから、避けているんだと言った。 彼が如何に野球が好きなのか改めて知った。

 

私には息子のこの気持ちが痛いほど良く分かった。 私もTVで避けている番組が3つある。 

 

1つは不快な番組で、どこかの国の見たくもない嫌いな政治家が出て来ると即座にチャンネルを変える。 これは単純でとにかく不快で見たくもないからだ。

 

もう1つは何んと言っても私の好きだったスペインやアジアの国々の映像が出て来る旅の番組である。 これは息子と似ていて、懐かしい昔が思い出されてたまらない気持ちになってしまうからだ。 数年前にも作品作りの撮影旅行に出掛けて来た。 また行けるなら今すぐにでも行きたいに決まってるのだ。

しかし私はもう妻を置きざりにして自分だけの為に金をかけて海外旅行する事とはきっぱり縁を切った。 もう海外旅行自体と決別してしまった。 これからはつぶさに身近な国内旅行を重ねて行こうと決めている。 決別した物は見ない方がいいのだ。 いや、怖くて見れないのだ。

 

もう1つ、3つ目はタイムラプス等の撮影に関係した作品や紹介番組だ。 私が現役最後の10数年間、個人事業を立ち上げ全てをかけて挑戦して夢中になって来た世界だ。 一応自分としては満足できる成果を得て、それなりの達成感を感じて引退をした。 もう引退をした世界なのだから関係ないはずなのだが、そうは割り切れない。

タイムラプスに限らず、撮影業界で働いている若い人達の姿を見ると「ちょっと待って! 置いて行くなよ!」と思ってしまう。 自分が彼らの仲間だと思ってしまい、自分だけ置いてきぼりにされ、取り残されるような錯覚をしてしまうのだ。 彼らは息子と同い年位だ。 相手から見たら「何だよ、このおっさん?」と言うだけの笑い話だ。 本当に自分の未練がましさと言うか、踏ん切りの悪さは嫌になってしまう。

 

見たくないものは見なければ良いだけなのだが、本当は好きでたまらないが一線を引いてしまった世界の誘惑は本当に辛い。 結果的にはチャンネルを変えるのだが、変えた後も直前の最後の映像が目に焼き付いていて、その残像がしばらく記憶から離れない。

 

とにかく「見たいものには蓋をしろ!」だ。 ひたすらそっぽを向くしかない。 最近はTVのリモコンから手が離せない。 とにかくチャンネルを変える頻度が上昇した。 特にニュースのある時間帯などは大変多忙となる。 必要とあらば瞬時に反応してチャンネルを変えなければいけないからだ。

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