早朝の群れの声、竹林から旅立つスズメ達

毎朝散歩していてスズメの宿が近くにあるのに気が付いた。 家の近くにちょっとした竹林があるのだが、かなり遠くからざわめきのような音が聴こえて来る。 近くまで行って、それが無数のスズメの鳴き声である事がわかった。

 

冬が近づいて、散歩開始時刻を少し遅くしたのだが、それでも日の出ちょっと前のスタートになった結果、このざわめきに遭遇する事になったようだ。 数えきれないほどのスズメが竹林の茂みの中で鳴き騒いでいる。 その姿は見えないが、その数は半端ではない事がその鳴き声を聞いただけでわかる。

 

そのとても賑やかなざわめきの横をそのまま通り過ぎようとした瞬間、突如数百羽のスズメ達が群れを成して一斉に飛び立つ場面に遭遇した。 いくつかの群れに分かれて飛び立つのだが、その出だしから「良くぞぴったり揃う」と感心してしまうほどの息のあった集団行動だった。

 

「おおお~~っ!!」と思わず空を仰いで声を上げた。 壮観な眺めだ。 スズメ達は、幾つものグループに分かれて飛び立って行った。 その集団が私の真上を通り過ぎる度に、羽音までが重なって「ざわぁ~~っ、ざわぁ~~っ」と聴こえて来る。 飛び出した群れはなぜか同じ方角に向かって飛んで行き、あっと言う間に見えなくなった。 どこに何しに行くのだろう。

 

そんな事があってから、毎朝気になって意識してその竹林の前を通る様になった。 観察していると、最初は静かに少数のスズメから始まった鳴き声は、時間の経過とともに次々に参加者を増やし、その内全世界のスズメが一斉に鳴いているのではないかと思いたくなるような大合唱となる。 目の前の家に住んでいる方は毎朝大変なのではと心配するほどだ。

 

ある朝その竹林に前に差し掛かった時に、あまりにも賑やかだったので、立ち止まって見上げる事にした。 良くは見えないが竹林の外側に時々「ぴょん、ぴょん」と飛び出しては戻ったりするスズメや竹林の中で跳んでうごめいているスズメがいるようだ。 そして次の瞬間、初めて見た時と同じような壮大な飛び立つ光景が展開された。 実に見事な見ごたえのあるシーンだ。

 

それから毎日、その竹林の前を意識して通るようになった。 そしてある事に気が付いた。 だんだん彼らの出発時刻が遅くなって来ているのだ。 なるほど、彼らの時計は自然の明るさだ。 どうやら日の出時刻10分前が彼らの出動時刻みたいだ。

 

夕方にはまた同じ竹林に戻って来るのだろう。 近所には色々な木が生えている林があるが、スズメのお宿は昔から竹林と決まっているようだ。 風流な世界として俳句や日本絵画などにも登場する。 夕方ばらばらに戻って来るのか、朝と同じ群れで集団になって戻って来るのか興味のあるところだ。 監視カメラで一日中ビデオ撮影してみたいものだ。

 

ところで、この朝飛び立つシーンはあまりにも印象的だったので、是非スマホのビデオでもいいから撮影してみたいと思った。 一瞬の日の出前の早朝の出来事なので大変難しそうだったが、そうなると意地でもなんとか撮ってみたくなるのが、撮影業界にも身を投じて来た私の性癖だ。

 

日の出前からビデオ撮影を開始してじっと待つしかない。 飛び立ってから撮影開始してまったく意味がない。 第一、飛立つ直前からの竹林内で飛び回る奴がいて、皆に声をかけて「起きようよ!行こうよ!」と動き回る所も枝葉に隠れて見にくいのだが、とても面白い見どころなのだ。

 

一日目は見事失敗した。 業務用のビデオカメラは散々使って来たが、スマホのカメラのビデオ機能は滅多に使った事がない。 15分近く撮影をして、スズメ達が全て飛び去って「やった!大成功!」と思ったが、良く確認したら、撮影開始ボタンを押したつもりが、停止させていて、全く撮影出来ていなかった。 前から思っていたことだが、A社のスマホの開始ボタンは、人間工学的によろしくない。 真っ赤な丸ボタンと、同じ赤の小さなボタンとでどちらが撮影中に見えるだろうか? いっその事、色が違う方が良いと思うのだが。

 

二日目は撮影自体はできたのだが、たまたまスズメ達が飛び去って行く方向が「竹林の向こう側」ばかりだったので、良いシーンがほとんど撮れなかった。

 

そして満を持して三度目の撮影に挑んだ。 日の出前の散歩の途中で寒さの中20分近く立ち尽くしたまま、かじかむ手でスマホを向けてひたすら待つのは拷問だったが、見事成功した。 疲れは吹っ飛んだ。

 

(その瞬間を撮影した動画。 簡単な説明が画像の下にある。)

  

私が何故こんな事に子供みたいに浮かれてビデオまで撮ったのか、自分でも興味のあるところだが、一番のポイントはスズメ同士のコミュニケーションに惹かれたからだろう。

 

目が覚めたあと、竹の枝葉に止まったまま夜明かししたスズメ達が鳴き始める。 そこからの出来事を私なりに推定すると・・・

 「朝だ!朝だ!お腹もすいたねぇ~」、「ボクも、私もお腹すいた~」

 

竹林内の枝葉の間を飛び回りながら皆に声をかけている元気者がいる。

 「起きようよ!行こうよ!」、「さぁ、みんな準備してよ!」

 

隣の竹の枝の上から下にも飛んでいる元気者もいる。

 「そっちの群れのみんなも準備しなよ、もう朝だよ!」

 

そんな事が繰り返され、その度に動きが大きくなって行く。 それにつれて鳴き声も一層大きくなって行く。 気持ちが盛り上っているのが伝わって来る。

 

「さぁ行くよ!さぁ行くよ!今日は南方向だよ!」

 そしてその瞬間、恐らく各群れごとにリーダーがいるのだろうか、

 「せ~の、せっ!」

 と、ばさばさ~っと群れのスズメが同時に「出発」する。 それも同じ方向を向いて群れのフォーメーションを少しも乱さず。

 

知人から東大の准教授の鈴木俊貴さんがシジュウカラなどの野鳥の言語を研究したという話が以前TVで紹介されたと言う話を聞いた。 調べると鳴き声に200種類以上の意味がある事を解明したそうだ。

 

シジュウカラとスズメは異なるかもしれないけれど、この朝のスズメ達の行動を見ていて声によるコミュニケーションがなければ絶対説明がつかないと思っていたので、我が意を得た気持ちだ。

 

自然界に、自分達の世界を築いて一生懸命元気に過ごしている生き物の姿は、いつも見る者を惹きつけ本当に幸せな気持ちにさせてくれる。

 

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