自動車の運転に関し、道路の左右どちら側通行なのか、ハンドルは左右どちら側に付いているかは世界で統一されている訳ではない。 日本で自動車を運転する時には道路の左側を通行をする。 そして基本的に日本の車は右ハンドルだ。
日本 : 右ハンドル・左側通行
海外に出かけ、車を運転しようとすると右側通行の国が多い。 日本と共に三か国しかない漢字圏を形成しているのに、中国と韓国は右側通行だ。 基本的に日本を含め、英国から車文化を導入した国々は左側通行となっている。
自動車のハンドルの取付位置は、原則左側通行の国では右側だが、右側通行の国では左側になっている。 その理由は実際に運転してみるとすぐに分かる。 そうでないと「追い越し」がしにくいのだ。 追い越そうと思った時に、対向車線にはみ出さなくても対向車が来ないか前方を見る為には、ハンドル側が道路の中央車線寄りである必要があるからだ。
私がいたスペインでは右側通行で、イタリア車に乗っていたのでスペインでは標準の左ハンドルだった。
スペイン : 左ハンドル・右側通行
最初はかなり緊張したが、一日を無事運転して過ごしたら、すぐに慣れた。 ところが頭は切り替えたつもりでも、身体を切り替えるのにはもうちょっと時間が必要だった。 左折しようとした時である。(日本での右折に相当する) ぐ~っとハンドルを切って交差点を曲がり切ると、身体は自動的に左折後の道路の左車線に入る様に動かしていたのだ。 左折だから、日本では身体に染み付いた操作だ。 目の前に対向車!と言う事になって、あわてて右側車線に入った。 その対向車はさぞかし肝を冷やした事だろう。 ただこのドキッとする運転操作は一度は肝を冷やしたが、それ以降はかなり意識して操作する事になり、同じような事は起きなかった。
ややこしかったのは、ミャンマーだった。 ミャンマーも自動車は右側通行なのだが、自国で自動車生産などできないし、裕福ではないので走っている自動車の90%以上が日本車で、しかも解体処分寸前のガタガタの中古車だった。 従って右側通行なのにほとんどの車が右ハンドルなのだ。
ミャンマー : 右ハンドル・右側通行
スペインと同じ右側通行なので、スペインでの初日に間違った左折時には何が起きるだろうか。 車は日本車の右ハンドルである。 右ハンドルのせいで、日本の癖で、左折後はつい左側車線に向かおうとしてしまいそうになる。
私はかつてスペインで冷やっとした経験があったので、最初から頭をフル回転させてスピードを抑えて操作した。 かなり頭は疲れたが、それも最初の一日だけで済んだ。 翌日からはハンドルの位置に惑わされず、スペインで1万キロ以上走って来た感覚を呼び起こして迷う事はなかった。
しかし、問題は追い越しだった。 対向車が見にくいので前を走っている車とぐっと距離を空けて(下がって)おとなしく運転をし、そろそろと中央車線を割って対向車を確認しなければならなかった。 ミャンマーは道路舗装が悪いのに加え、古く傷んだ車が大変多いので走行速度が概して遅い。 さらに車道を牛車や馬車がのんびり走っているので先行車が急減速する事も多く、追い越しにはかなり気を使わなければならない。 私は程度の良い中古車をつてをたどって借りる事が出来たので、長い道中をそこそこ飛ばして走ろうとするのだが、その為には追い越しに次ぐ追い越しを延々と続けることになる。
最初は先行車のすぐ後ろで、対向車が来ない事をもう一度最終確認しようとして対向車線にはみ出した瞬間に急減速されたり、突然横道から対向車が現れたりと冷やっとした事が何度かあったが、だんだんコツを覚えて、前方にゆっくり走る先行車が見えて来たタイミングで、対向車線に目を配り、先行車に近づいて行く段階で早めに対向車線にはみ出して、対向車のない事やすれ違いのタイミングを確認するようになった。
このハンドル位置と走行車線の関係は、日本で左ハンドルの外車に乗るのと同じようなものだ。 左右が逆なだけで、道路事情や交通事情の問題はさておき、日本で左ハンドルの高級外車に乗っている人は、追い越しのしにくさについては同じ苦労をしているはずだ。
日本で生産国仕様の外車に乗っている場合 : 左ハンドル・左側通行
そう言えば日本で左ハンドルの外車に乗っている人は昔からゆったりと豪華に乗り回している印象があった。 昔は煽り運転する人は多かったが、外車がそういう運転をするのはほとんど見なかった。 しかしそれはお金持ちなので優雅に運転していたのではなく、ゆったりと運転せざるを得なかったのに違いない。
私はこの通行区分とハンドル位置の違い、その組み合わせから来るちょっとした混乱から、自分が当たり前と思っている事が当たり前ではない世界を体験して、とても興味深かく感じた。 そこに住んでいる人にとっては、何の不思議もない事なのだが、異なる環境から来た人にとっては大きな戸惑いが起きてしまう。 皆は平気な顔しているのに、こちらは必死にならなければならない。 たかが交通ルールではあるが、「ところ変われば品変わった」と言う体験はとても勉強になった。
最近訪日外国人が増え、各地で彼らの予想もしなかった様な行動が話題になる事が増えて来た。 落書きや器物損壊などの悪質ないたずら行為は論外であるが、基本的には常識のある人達が大半を占めているだろう。 特に西洋から訪れた人にとっては、昔ほどではないにしても日本の生活様式は西洋とは大きく異なっている点が多く、戸惑っている事は多いはずだ。
モラル面の違いはもちろんだが、日常的な行動上のルールの違いに起因する戸惑いも多いだろう。 その戸惑いが故に犯してしまう迷惑行動もあるはずだ。 そんな事を含めた全ての体験が彼らにとっては大切な旅の想い出だ。 私はそんな彼らを暖かく見守ってあげたいと思っている。
日本が高度経済成長を謳歌していた頃、まだ貧しかった東南アジア諸国を始めとする諸外国に、日本人の誰しもが団体旅行で押しかけ、今の何処かの国の団体旅行より失礼で横暴で非常識な行動をして悪びれもしなかった時代もあった。 現地の習慣もルールも理解しようともせず、戸惑いもせず恥をさらした事もあった。
我々も海外に赴けば、大なり小なりその地のルールの前で戸惑ったり、意図せず迷惑を掛けてしまう事もあるはずだ。 海外で暖かく迎えてくれてお世話になったお礼に、今度はこちらが暖かく手を差し伸べてあげる番だ。



