良く南国の人は陽気で情熱的だとか、北国の人は生真面目で遠慮がちの人が多いとか言われる。 私がして来たわずかな経験からでも、大概に於いて当たっている事が多い様な気がする。
私は仕事でスペインで暮らした事があるが、イベリア半島の南部のアンダルシア地方に代表される地域と、中部のカスティージャ地方に代表される地域と、北部のカンタブリア地方に代表される地域は、その文化も人々の気質も大きな差異があった。
南部のアンダルシア地方は、天気の日が多く一年中乾いた気候で、暑い太陽がジリジリと照り付け、乾燥した大地が延々と広がりオリーブの畑に覆われた地域が続く。 夏の気温は大変高く冬でも温暖だ。 人々は陽気にワインを飲んで、ジプーシー達が躍るフラメンコの雰囲気が街を賑わしている。 みんな細かい事には拘らず、人生を満喫している様に見える。 多くの人がメディアなどを通じて知るスペインのイメージは、おそらくこのアンダルシア地方に代表される物だろうと思う。
それに対し、北部のガリシア地方やアストゥーリア地方では、北の大西洋岸に沿った雨や曇天が多い湿潤な海洋性気候が続く。 冬は温暖で夏も他の地域に比べて涼しい。 人々はRiveiroと言う独特な白ワインを飲みながら海の幸に舌鼓を打ち、静かに暮らしている。 今でも忘れないのが、海辺の村々を通過しながら西の大西洋岸に向かって車で走っていた時に体験した事である。
ある村の路地でベレー帽を被った男性が2,3人で立ち話をしていた。 そこに私の車が近づくと、彼らは話をやめてじっと私を見つめ始めた。 車が彼らの真横を通って通過するに従い少しずつ首を回してこちらを追いかけるように見ている。 そしてルームミラーに映る彼らの姿は、最後まで私の車を見つめていた。
何か所かで似たような光景に出くわした。 とにかく人々の印象はおとなしく内気で暗かった。 もともと陽気でマイペースで他人のやる事には拘らない快活な性格な人が多いスペインで、そのような行動をする人を見てとても奇異に感じたので驚いた。 南のアンダルシア地方で見たスペイン人とは全く異なる文化の世界だった。
私は中部のカスティージャ地方に滞在していたが、大陸性気候で昼夜の寒暖差が大きくどんなに暑い夏の日でも夜は窓を閉め切るほど涼しかった。 夏はかなり暑いが、冬は寒く雪が降る事もあった。 中世の数多くの遺跡や遺産にも恵まれ、人々はラテン文化を継承した堅実で引き締まった雰囲気の中で豊かな日々を送っている様に感じた。
また、これも仕事で南太平洋の島国、フィジーで暮らした事がある。 フィジーの気候は雨期と乾季の熱帯性気候で四季はない。 1年を通じて暑いが、気温はそれほど高くはならない。 その代わり湿度が年間を通じて高いのが特徴だ。
だから島中に草木が生い茂っている。 ちゃんと街中の職場で働いている様な人達も、多くが草木がジャングルの様に深く生い茂る中に点在する集落で、昔ながらの簡単な造りの家に住んでいる。 一年中蒸し暑い事が影響しているのか、人々はのんびりとアバウトな性格をしていた。 あまり環境の変化もないので、文化にも変化がない淡々とした物を感じた。
色々な要因があり単純に比較はできないとは思うが、スペインの南部アンダルシア地方の様な、乾燥した大地に照り付ける太陽と激しい気温変化が生んだ、明るく躍動的で情熱的だった文化と比べると、同じ太陽に恵まれた暑い国でも様相は全く異っていた。
人種や宗教・文化・歴史などの影響もあり、何も気候だけが要因ではないが、私はそれぞれの気候の特徴が人々の気質に大きく反映されているように感じた。
また、日本国内を見ても、昔から北国と南国に住む人々の気質の差については良く語られている。 南に行って暑い気候になるに従い、人々は開放的・楽観的・情熱的になるようだ。
今、日本では地球の温暖化の影響をもろに受けて、気候は劇的に変わりつつある。 数年前から、夏冬の気温の変化が大きい独特な気候に変わり始めている様だ。 夏が長くなり、一年が暑い夏か寒い冬に分断されて行く感じだ。 春・秋が短くなって、四季をゆっくり感じる時がどんどん無くなって行く。
日本の豊かな四季の変化は日本独特の季節を愛でる文化を育んで来た。 このままではいずれそんな風情も失われていく様な気がする。 これが長い間に日本文化に与える影響は決して小さくないだろう。 そしてこれが日本人の気質の変化につながっていくのではないかと思う。
今年の気候の移り変わりは特別で、夏から表日本と裏日本との天候格差が目立っている。 日本全国をゲリラ豪雨が襲い、小さな島国なのに干ばつと水害が隣り合わせだ。 太平洋の大陸の手前で大陸からの気団と太平洋の気団がぶつかり合う地域特性は、私が経験して来た同じ中緯度にあるスペインとも、南国フィジーとも異なった、特徴的な気候を産みつつある。
すべての日本人にとって未体験ゾーンである。 この大きな気候変化が、昔から繰り返されて来た長い周期の自然変動による物ではなく、二酸化炭素排出などの人為的な原因によるものであるなら、農業・漁業の収穫物の中身を変えていくだけでなく、今後時間をかけて日本の文化と日本人の気質をも変えて行くかもしれない。