私は単純情熱派で、自分が何かに取り掛かるときは猪突猛進で全力投球をする。 自分自身を叱咤激励して突進するのは構わないが、これを他人に対して行って、それについて来る人はいない。
私は人を動かそうとして若い頃から何度も失敗して来た。
新入社員の頃、仲の良かった同期生の女の子が結婚して間もなく家を飛び出した。 結婚のいきさつも知っていたばかりか、相手の男性と飲み交わした事もあった。 転勤先の支店で仕事中に彼女から泣きながらの電話で別れることになったと知らされた私は、すぐに彼の職場に電話をした。 私は彼の話も聞かず、やおら彼に対して「駄目じゃないか!」苦言を呈した。 彼は「いいです!放っといて下さい!」と言って電話を切った。 彼とも彼女ともそれっきりになった。
永年勤めた銀行を退職後、いくつかの小さな会社に新たな活路を見出そうとした。 ある会社でトップの地位を任じられた。 この頃には、仕事より趣味などに夢中になって猛進して来た私も、仕事に対して真摯に向き合うようになっていたので、職務を果たそうと猛進を始めた。 これが良くなかった。 社員に対しても猛進し叱咤激励を始めたのだ。 やがて社員はだんだんそっぽを向くようになって行った。 私はほどなく居場所を失って行った。
私は銀行員時代、語学力とか電子技術関係の特殊能力とかを買われ国内外を問わず常に第一線の現場に活躍の場を与えられてきた。 しかしそれは逆に言うと出世コースの管理者の道は与えられず、人の(部下の)心をどう動かすかと学ぶ機会は与えられなかったのだ。 仕事第二で遊び暮らして来たのだから当たり前である。
過去を冷静に振り返られるようになった今だから分かる。
人の心を動かしたかったら、まずその人を愛し、話を良く聞き、良き理解者になることだ。 それができれば、人は黙っていても付いて来る。
そんな簡単な事を理解するのに私は一生かかってしまった。