パソコン人間になって五十年。
一時は十台近いパソコンを同時に稼働させていたこともある。 そんなハードユーザーの私が、これまでウィルス被害に遭わずに済んできたのは、運が良かったか、あるいは常に使ってきたウィルス対策ソフトのお陰だったのだろうか。
その「当たり前」にしていた油断が、とんでもない結果を招いた。
そんな思いを新たにする事件が起きた。
私のMicrosoftアカウントがハッキングされたのである。
WordやExcelなどをサブスクリプションで利用しているのは、多くの人と同じだ。 ところが先日、エクセルの挙動がおかしいことに気づいた。 表の塗りつぶしの一部の色が変わっていたのだ。 アカウントのページを見ると、「アカウントエラー アカウントに問題が有ります。」と表示。 嫌な予感がした。
サインインしようとしても入れない。 あれこれ試し、パスワードの変更を試みたとき、背筋が凍るようなメッセージが出た。
アカウントが乗っ取られていた。
私のメールアドレス「sky@skypix.jp」でサインインできず、「別の方法でサインインする」を選ぶと、コードを送ってもらう画面が出る。
ところが、その送信先として表示されたのは ――
「cl*****@talkaik.online」
見たこともない他人のメールアドレスである。 指先が震えた。 本来ここには私自身のメールアドレスが表示されるはずである。
つまりハッカーによって
1.パスワードが変更され
2.登録メールアドレスも書き替えられ
3.アカウント名(sky@skypix.jp)とカード情報だけが残されている
という最悪の状態だった。
これから私の泥沼の闘いが始まった。
とにかく、Microsoftに、私が正当のユーザーであることを認めてもらい、変更された情報を元に戻してもらわなければならない。
しかし、巨大企業でのサポート体制は想像以上に複雑だった。 どこを辿っても「人間の担当者」に辿り着けない。 しかも、何をするにも「サインイン」が必要だが、こちらは肝心のその「サインイン」ができないのだ。 この矛盾に、本当に苛立った。
ようやく復旧フォームに辿り着いたものの、求められるのは記憶の彼方の情報ばかり。 できる限り入力して送信したが、返ってきたのは冷たい定型文。
「お客様から提供していただいた情報では、アカウントの所有権を確認するのに十分ではないと判断しました。」
さらに追い打ちをかけるように、この方法の利用は「一日二回まで」、「二段階認証を選択している場合はこの方法では復旧できない」などの制限。
昔どんな設定にしたか覚えているはずもなく、試しては跳ね返されるばかり。 だからこそ担当者とチャットなり電話で話す必要があるのに、少なくともサインインできない者に対してはその道がどこにも用意されていない。 本当に救助を求めてSOSを出している緊急患者に、すがるべき「119番」がないようなものだ。
結局、二十四時間必死になってMicrosoftのAI・Copilotに導かれるままページをさまよったが、堂々巡りを繰り返すばかり。 がっかりし、悲しくなり、ついには「もう誰でもいい」とChatGPTに泣きついた。 いくつか方法は示してくれたが、最終的には
「諦めてクレジットカード会社に連絡してカード決済を止めてもらうしかない」
という結論に至った。
カード会社に相談すると、特定の請求だけ止めることはできないが、不正利用されているのであればカード番号の変更は可能とのこと。 これで来月にはハッカーもMicrosoftから利用停止され、私は不正請求を受けずに済むのだろう。
そこで私は新しいMicrosoftアカウントを作成し、新規にサブスクリプション契約を結んだ。(別のカード会社にした) WordやExcelは即時復活した。 あとは新しいカードが届き次第、他のサブスクリプションの決済情報を変更をするだけだ。
ただ、まだ落とし穴は残っていそうだ。 カード会社の担当者によれば、「今後Microsoftからの請求が100%止まるとは言い切れない」そうだ。 理由については明確な理由を説明がなく、おそらくマニュアルに従ってそう言ったのだろう。 さまざまなケースがあるため「ある特定のケースでは」ということだとは思うが、大変不安な内容だった。
やはり、最終的にはMicrosoftの電話相談窓口を探し、マニュアルで乗っ取られた登録情報を修正してもらうしかないようだ。 消費者センターや、独立行政法人IPAにも相談したが、彼らも電話相談窓口を見つけられず、それ以外の救済方法も得られなかった。 大変なことになったものだ。
不安は残るが、取り敢えず一段落はした。 カードの番号変更で決済情報が無効となり、Microsoftがハッカーの利用しているサブスクリプション契約を解約することを祈るばかりだ。
ハッキングの原因は、一時的にウィルス対策ソフトを停止させたことと関係しているかもしれない。 実は、HDDに保存した映画『男はつらいよ』を観ていると、盛り上がったところでスキャンが始まり、通知ポップアップが出て再生が止まる。
これが不愉快で、観る前に「4時間だけ保護をOFFにする」をクリックしていた。 過去一カ月に三回ほど。 「リスクがあります」という警告を無視した「平和ボケ」のつけが回ってきたのだろう。
「ちゃんと仕事をしてくれていたんだなぁ」
としみじみ思った。
信頼すべき相棒を軽んじてしまった。
映画を観るときに邪魔をする厄介者だと思っていた。
多少の不都合があっても、彼らの仕事を決して妨害してはならない。
身に染みる教訓を得た。

