映画「男はつらいよ」の寅さんに近づく私

映画「男はつらいよ」は「寅さん」の名で親しまれている素晴らしい日本を代表する娯楽映画だ。 渥美清が1969年から1997年までの間、俳優人生の最期までかけて演じた全50 作のシリーズ映画である。

 

毎回色々な美人のマドンナが登場し、寅さんと男と女の楽しい物語を作り出す。 どの回も恋は実らない。 惚れやすい寅さんがふられる回が多いが、逆に惚れられて不器用な寅さんが去って行く回もある。

 

私は本当に寅さんが好きだ。 生涯、好きになった映画はほかにない。 寅さんシリーズ全50回は、何度観たかわからない。 もちろん映画館ではなくて、パソコンにDVDからコピーした動画ファイルを観る。

 

好きなのだが、寅さんは決して私の憧れの理想像ではない。 とてつもなく格好悪いからだ。 でもその格好悪さがとても格好良いのだ。

 

私の生きて来た生き方とはまるで正反対なのだが、それでも惹かれるのが寅さんと寅さん映画の魅力だ。 何が私の心を捉えるのか、登場人物像とストーリーの魅力からその特徴をちょっと整理してみた。

  

【寅さんと言う人物像の魅力】

             ・一般論で言うとその日暮らしの最低な駄目男

   ・憎めない

            ・優しい暖かさ

            ・日本の伝統である義理人情(浪花節)の世界に生きるカッコ良さ

            ・素朴さ暖かさに惹かれる女も多い

   ・情にもろい

            ・女には惚れやすいが手は出せない純情派

            ・金はなくても心は錦

            ・酒とちょっとしたつまみがあればいい

            ・カッとなるが、決して根に持たない単純さ

            ・男として兄としてカッコつけ様とするが、つけられないカッコ悪さ

            ・慕ってくる男に対しては思いやりがあり、カッコ良く振る舞える

   ・いたずらもする子供っぽさもある

   ・家ですぐもめ事を起こして家を飛び出す

   ・いつも心の中の故郷への思いが心の支えになっている

            ・家族と熱い絆で結ばれている

  

【寅さんの周りの人達の人物像の魅力】

             さくら(寅さんの妹)

                       理想像を超えたやさしさ溢れる兄思いの妹

                       兄や周りの人を立てるやさしさと奥ゆかしさ

                       理想のやさしい献身的な美人奥さん

            ひろし(さくらの亭主)

                       真面目な働き者でさくらの伴侶に良く似合った存在

                       ひたすら寅さんを兄として立てる姿を見せる真面目な性格

                       登場人物の中で何かがあれば一番頼りになる存在

 

   おいちゃん(寅さんとさくらの叔父)

               出来のわるい甥、寅さんを憂いてる

               しかしいつも寅さんの成長を願っている

               短気だが情にもろくて庶民的な叔父さん

 

   おばちゃん(寅さんとさくらの叔母)

                      暖かさ溢れるおばちゃん

                      情に厚いおばちゃん

                       単純で抜けている愛すべきおばちゃん

           

   たこ社長(隣の零細企業/印刷工場の社長)

                       単純ですぐカッとなるが情にもろい

                       働き者だがついズルをする庶民的な社長像

                       家族の様に親しんで昼夜問わず寅たちの家に出入りするお隣り

           

           御前様(近所のお寺の住職)

                        柴又の街のみんなの尊敬を集める存在

                        寅さんを小さい時から見て来て良く知っている

                        独特な優しい距離感でみんなを見守っている

 

    源ちゃん(近隣のお寺の小僧)

                        生まれつきの知恵遅れだが柴又のマスコットのような存在

         寅さんを兄貴として慕う存在

         寅さんの引き立て役

 

【ストーリーの魅力】

寅さんがマドンナに「ふられる」事が多い。 しかし、嫌われてふられるのではない。 暖かさを感じさせる寅さんには、マドンナがいつもとても慕って来る。 ただ寅さんと恋愛をするつもりはなく、自分の一方的な思い込みだったと分かって寅さんは去って行って終わる。

           

逆にマドンナがふられる事もたくさんある。 マドンナはその気になっているのに、その気持ちが分かると、寅さんは不器用で怖気図いて自分から去ってしまうと言う、寅さん独特の美学がある。 この美学が、「浮世離れ」していて寅さんの魅力を作っている。

           

マドンナが基本的に毎回変わり(複数回出演のマドンナも有り)その個性と魅力を生かしたストーリーが新鮮で飽きない。 そしてそのストーリーの舞台は、いつも日本中を旅して出逢った風光明媚な田舎と言う誰もが憧れる世界だ。

 

一年中行商をしながらあてもなく旅を続けている風来坊が、いつも故郷と心が強くつながっている様子を描いている。 その故郷の葛飾・柴又の実家とその近隣の人達が作っている家族の様な日本的コミュニティが、見る者の心を温かく包む。

 

随所に出て来る、寅さんの行商先での地口(じぐち)・啖呵売(たんかばい)、すなわち「語呂合わせ」と「面白おかしい叩き売り」での物売り場面。 そのノリとリズムと表現が完成された口上は、何度聞いても飽きず、楽しい独特な寅さんならではの世界だ。

 

こうやって見てみると、登場人物の個性がストーリーに緻密かつ効果的に生かされていて、良く考えて描かれた素晴らしく完成度の高い作品である事が良く分かる。 原作者であり脚本も監督も一人で務めた山田洋次の素晴らしさにはただ感嘆するばかりだ。

 

最近自分がだんだん寅さんに近くなって来たような気がする。 色々な時に言う事、言い方がドキッとするほど寅さんに似ている時があるのだ。 これは妻に指摘されて気が付いた。

 

分かり易い例を挙げると、例えば妻にお金を渡す時があると、ぴらっとお札を渡して「釣りはいらねぇよ!」と格好つけて言う。 映画に何回も出て来る寅さんのお馴染みのせりふだ。 それ以外にも随所で寅さん調の言葉が出てしまう。 これは私が意識してわざとそう言っているのではない。 自然にそうしてしまう事が多い。 つまり、かなり感化されている状態だ。 正直自分と寅さんとの間に一体感すら感じる時がある。

 

寅さんは、日本人ならわかる、あるいは日本人にしかわからない、日本人の心の故郷の世界を演じている。 どんな日本人も心のどこかに共感できる物があったり、隠れていると思う。 これを今の、あるいはこれからの若い人達がどう感じて行くのかはわからない。 多分、共感する事はないかもしれない。 しかし少なくとも同じ時代を生きて来た人達には通じるのではないかと思う。

 

私も寅さんのように色々な所で好き勝手に生きて来たが、今は自分の心の故郷に戻ろうとしている。 まるで寅さんが、気が付くと葛飾柴又の懐かしい家に戻って来ていたように。 今までゆっくりと振り返る事があまりなかった母親や父親を、懐かしく思い出す事も増えて来た。

 

だから今、この寅さんに無性に親しみを感じてしまう。 私が日増しに寅さんに似て来たとしても少しも不思議はない。 その格好悪さがとても嬉しい。

 

周りを見渡すと、色々と新しい映画作品が熱気をもって語られ人気を博しているが、どんな映画が出て来ようとも、私はこの一本だけだ。

  

(ご参考)

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