地球を塗り替える「大移動」

大分の親戚から箱いっぱいのカボスが届いた。毎年頂いているとても楽しみな贈り物だ。その香り高い果実は、絞って焼きサンマにかければ夢心地だ。このためにカボスがあるのではないかと思うほどの、涙が出そうな味のデュエットだ。

絞ってそのままお湯と砂糖で割ってカボスジュースにすると、もう他のジュースなど飲みたくなくなる清涼感を味わうことができる。

 

つい先日は、佐賀の親戚から箱いっぱいの梨が届いた。こちらも毎年の贈り物だ。どこにも見ることがないような大きな果実で、箱を開けるたびに驚いてしまう。噛みしめると芳醇な果汁が口いっぱいに噴き出し、この梨は絶対食べられるために生まれてきたものだと疑わない。

 

どちらの果実も、地元で選りすぐりの農家が丹精込めて育てた特級品である。

私の地元のスーパーで売っているものとの味の差は、言葉に尽くせないほど大きい。


どんな農産物や海産物にも「特産地」というものがある。今でもその特産地が守られ続いていることはとても嬉しいことだ。

 

しかし、人間はこの地球という星の上で、直接・間接を問わず環境を変化させ続けている。

人間の経済活動による地球温暖化が異常気象を招き、農産物の生育は大変な苦境に立たされている。日本では異常な降雨の継続で稲の実りが深刻な被害を受け、欧州では異常高温によりスペイン・フランスを中心にオリーブやぶどう、小麦、トマト、とうもろこしなどが壊滅的な打撃を受けている。

 

注目すべきは、地球上からそういった作物を生育できる場所が消えているわけではないということだ。高温で栽培できなくなった作物は、従来は低温で不適だった地域で栽培できるようになっている。

つまり、「産地が移動」しつつあるのである。


この現象は、地球上で起きているもう一つの「移動」を思い起こさせる。移民の増加である。

 

スペイン領のセウタでは、すでに数万人がモロッコから流入している。

アメリカが必死になって壁を築いて流入を防ごうとしている、メキシコ側からの不法移民は、累計で1,500万人に達すると言われている。

1,500万人という数字は、単なる統計ではない。 それは「国境」という概念が、もはや地図の線ではなく、経済の力学で決まることを示している。

 

中東から欧州へ流入したシリア難民は数百万人に及び、アジアから湾岸諸国へ向かう経済移民は世界最大級の規模だ。

わが国にでも、アジア諸国から300万人を超える外国人労働者が居住し、仕事に従事し、労働力不足を支えている。

 

これらの移民は異常気象とは関係がない。経済発展の地域格差が生んだ必然的な人間の行動である。


要因は異なっているが、農産物も人間も地球上を移動せざるを得ず、そうしているうちに地域の歴史から生まれ継いできた特性が、徐々に失われつつある。

いわゆる均質化である。

 

人間も、日本ですら肌の色の違う人々をどこでも普通に見かけるようになってきた。移民の歴史の古いアメリカやフランスでは、肌の色の異なる人々が国民として活躍し、スポーツ大会にも多数登場している。

これから長い歴史をかけて血は混ざり、新しい血統が生まれ広がっていくのは自明の理である。

いわゆる多様化である。

 

地球は狭くなったと言われる。

人や物の往来が頻繁になることで、昆虫や植物の外来種による被害が発生する。最近も、桜の木の内部から食い尽くす「クビアカツヤカミキリ」の急速な拡大が話題になっている。

 

在来種は長い生命の歴史の中で国内の生環境に適応して進化してきたため、想定外の外来種には無防備である。

反対に、日本の昆虫が海外で外来種として広まり被害を与えた例もある。

 

特定の領域に落ち着いていた人々や農作物、生き物が、地球の上の国境を越えて移動をする時代となった。

すべて元をたどれば人間の行動に起因している。

 

人間の移動は多様な文化の融合となり、新しい世界を作って行くに違いないが、その地の特産物が失われていく変化は寂しい。

しかしその均質化の裏で、多様化は新しい文化の到来を示唆している。

 

地球の上で、歴史を変える大移動が繰り広げられている。

 

 

コメントする