先日、NHKテレビで台湾の天才プログラマー、オードリー・タン氏(1981年生まれ)へのインタビューが紹介された。
彼の語りには、思わず膝を打つような示唆が多く含まれていたが、なかでも私の心に特に深く響いたのは、AIとの向き合い方に関する彼の基本姿勢だった。
AIについては多くの人々が様々なメディアで意見を述べている。しかし、彼の話は単純明快でありながら、現代の混乱したテクノロジー環境に対して大きなヒントを与えてくれるものだった。
1.「Artificial」 を 「Assistive」 に置き換える
AIは「Artificial intelligence」(人工知能)と呼ばれるが、彼はそれを 「Assistive intelligence」(人を支援する知能)と語った。人工(Artificial)を支援(Assistive)へと置き換えることで、AIが人間の代替物ではなく、人間の能力を補助する存在であるべきだという立場を明確にしたのである。
この姿勢は、AIが人間に取って代わるという誤った恐怖を払拭し、主従関係の軸を人間側に確保するための重要な視点である。
2.AIを「人間のコミュニティ」に適応させるという発想
彼のその考え方が生きているエピソードも興味深い。
ネット上でひぼう中傷の嵐にさらされた際、彼は無数の悪意ある投稿に対して眼をそむけるのではなく、わずかでも建設的な部分を探し出すために、AIに対し「私の違いと、その違いを橋渡しする共通点を示してください」と指示したという。
AIは数千文字の悪意ある投稿の中から、注目すべき部分だけを抽出し、彼はそのお陰で前向きな対応ができたそうだ。
ここには、AIを人間の価値観に適応させるという彼の哲学が明確に表れている。
3.テクノロジーに適応させられる人間と、ハムスターの比喩
現代の多くの人は、テクノロジーによって、人間の方がテクノロジーに合わせることを強いられている。SNSでは最初の数秒で注意を引く仕掛けを提示しなければ、すぐにスクロールされてしまう。
確かに電車内では無言で画面を見つめながらスクロールを繰り返す乗客が多数を占める。
タン氏は、これは「人間がAIシステムに適応させられている状態」であり、「AIを人間のコミュニティに適応させているのではない」と指摘している。
そして、この状況における人間の役割を「猛スピードで回る回し車の中のハムスター」に例えた。
ハムスターは走り続けなければならないが、どこにも進んでいないし、その回し車を自ら動かしているわけでもない。
この比喩は、テクノロジーが人間の認知と行動を支配する構造を鋭く描き出している。
私はIQ180と報じられる彼のような頭脳明晰な天才が、このような視点を持ち語っていることに、心から安堵を覚えた。
道路を歩きながらスマホでSNSをスクロールする人々。
電車内で無言で画面に没入する乗客たち。
自転車運転中でさえスマホを手放さない危険な行動。
飲食店で食事中も動画から目を離さない人々。
タブレットで動画を見ながら家族と会話もせずに食事をする小学生。
タブレットをタップするだけで宿題こなす環境を作った大人たち。
これらは、人間の心と知恵がテクノロジーによって浸食され、ハムスター化されていく兆候である。
さらに世界各地で繰り広げられている戦争は、人間が武器を手に戦っているのではなく、テクノロジー同士の闘いへと変質している。
自動化された意思決定が人間の未来を左右し始めている現実を、もはや看過することはできない。
もっと多くの著名人が警鐘を鳴らし、逸脱しつつある人間とテクノロジーの関係性を正していかなければならない。
人間が主であり、テクノロジーが従であるという本来の構図を取り戻すために。
文明の舵を握る手を、決して離してはならない。