10.男が学ぶ女の美しさ 08/22/2021

「ある男が絶世の美女と結婚したが一年も経たないうちに病に倒れ亡くなってしまった。 その男は悲しくて悲しくて泣いて過ごしたがどうしてもその美しい女房を忘れられない。 ついに堪えきれなくなってある晩、妻を埋葬した墓を訪れた。 彼は墓を掘り起こし棺が現れた。 妻に一目また会いたくて棺の蓋をこじあけた。 ところがである、そこに現れたのは腐敗して人とは思えないただ骨と肉の塊に化した遺体であった。 彼は衝撃と共にこの世の無常を深く感じ、それから仏門に入り一生仏に仕えて暮らした。」

と、言う話が有名な平安時代の説話集「今昔物語」にあるそうだ。 これは私の大好きな日本の美と日本人の心を見事に描き切った超大作映画シリーズ「男はつらいよ」(寅さん)の第22作に出て来るお寺の和尚さんが寅さんに語った話である。 ちなみに映画では若干アレンジされていて、今昔物語の原典では「死体を掘り起こす」のではなく死体を埋葬するのが忍びなく「毎晩死体を抱いて寝ていて」だそうである。

この映画は1969年から26年間にわたり48作続いた風光明媚な日本各地を旅をしながら行商をし、失恋経験を重ねて行く温かいけどダメ男の人生物語であるが、毎回お相手となるマドンナ役が代わる。 その時代の人気女優が毎回名を連ねるのでこの映画は日本の人気女優史でもある。

好みもあるので誰がと言うのは人それぞれだとは思うが、私もついうっとりとしてしまう女優がいる。 ところでその映画に登場する若い彼女があまりに綺麗なのを見て、ふと今はどうなっているんだろう? と思い、インターネットで画像検索をしてみた。 女優の名前を入力して画像検索とやればゾロゾロといくらでも過去の写真が出て来る。

今も生きておられる方なら今現在の写真も必ず出て来るのだ。 何人か同じような検索をしてみたが、そのたびにショックを受けた。 「ええ?なんでこうなるの??」だ。

もちろん自分だって若かりし時のハンサムな姿(笑)はどこに行ってしまったかと思われるような変わり方をしている。 しかし、若さがその姿を「罪作りなほど」まぶしく美しく見せてしまう女性の場合は別次元の話だ。 しかも男性にとって女性の容姿は何よりも大きなインパクトがあるのだ。

最初の一人の変貌ぶりを知ったのは実はかなり以前に世界の絶世の美女と言われたフランス女優のオードリー・ヘップバーンの晩年のしわくちゃな写真を見た時だった。 老化が早い西洋人なのでなんとなく特別なケースだと思っていた。 しかし最近寅さんのマドンナを何人か画像検索して、これはただ事ではないと感じた。 世界的に見て老化が遅くいつまでも若さが残る東洋女性の世界でも、歳をとれば最後は誰でもそうなるんだと言う事実をいやというほど思い知ることになった。

こうなると可愛いだの綺麗だの騒いで男が女を追いかけること自体が実に無常な事に見えてくる。 ほんのひとときの、そのときだけの姿に振り回されているわけで何とも空しい。 その姿はその人の「すべて」ではないのだ。 その人のある特定な一瞬の姿に過ぎないのであって「絶対的」真実ではないのだ。

私は過去において何でそんなものに惹かれ、追いかけて来たのかとむなしく思えて来る。 過去私の目の前を通り過ぎていった数多くの魅力溢れる美人たちの姿に、冒頭の今昔物語の中に出て来るシーンが重なる。 私は何をしていたんだろう。 男の愚かさよ。

女とは永い間一緒に暮らし、お互いに相手を大切に思ってこそ初めて見えて来る姿が一番美しく、それこそが永遠に変わらない真の姿である。

男はそれを一生かけて学ぶのだ。